建設業許可の取得を思い立ったとき、多くの事業者様が真っ先に心配されるのは、「自分は経営業務の管理責任者(経管)になれるか?」「専任技術者(専技)の要件を満たせるか?」「500万円の資金(財産的基礎)は大丈夫か?」といった、人やお金に関する要件です。
しかし、実務の現場では、これらの難関をすべてクリアしたにもかかわらず、「事務所(営業所)の準備不足」という、思わぬ物理的な理由で申請がストップしてしまうケースが驚くほど多く発生しています。</p
特に、コストを抑えるために「自宅兼事務所」で申請しようと考えている個人事業主や一人社長の皆様。「机と電話さえあればいい」という甘い認識は、許可取得を大幅に遅らせる原因となります。
行政庁は「建設業を営むにふさわしい、実体のある事務所か」を厳格に審査します。「知らなかった」では済まされない、自宅兼事務所ならではの「盲点」と、審査を一発でクリアするための「具体的な条件」について、実務的に徹底解説します。
なぜ「営業所」はこんなに厳しく審査されるのか?
まず、なぜ行政庁は「事務所の形態」にこれほどこだわるのでしょうか。それは、建設業法における「営業所」の定義が、単なる連絡場所ではないからです。
建設業法でいう「営業所」とは、
「本店又は支店若しくは常時建設工事の請負契約を締結する事務所」
と定義されています。つまり、見積り、入札、契約締結といった「重要な営業活動」を実質的に行う拠点であることが求められます。
さらに、許可要件である「経営業務の管理責任者(経管)」と「専任技術者(専技)」は、原則としてこの営業所に「常勤」することが義務付けられています。
行政庁が審査で確認したいのは、以下の2点です。
- 契約書や見積書といった重要書類を適切に管理・保管できる、独立した環境があるか?
- 経管や専技が、本当に毎日そこで勤務できる「実体」があるか?
この視点がないと、「なぜこんな写真が必要なんだ」「なぜリビングではダメなんだ」という疑問が解消されず、準備を誤ることになります。
【盲点トップ3】自宅兼事務所で「許可が取れない」NGパターン
実務相談で「これでは申請できません」とお伝えすることが多い、典型的なNGパターンを3つご紹介します。
盲点1:生活空間との「独立性」がゼロ
これが最も多いNG理由です。「常勤」といっても、自宅で寝泊まりしている事実をもって常勤とは認められません。審査されるのは「執務空間」としての独立性です。
【NG実例】
- リビングやダイニングテーブルの片隅を「デスク」として申請しようとしている。
- ワンルームマンションで、ベッドのすぐ横に机を置いている。
- 玄関から事務所スペースへ行くまでに、必ずキッチンや居間などの「生活空間」を通らなければならない間取りになっている。
【NGの理由】
これらの環境では、家族や来客が請負契約書、設計図書、顧客情報といった重要書類に容易にアクセスできてしまいます。これでは「事務所」としての機密保持性、独立性が担保されているとは到底言えません。
盲点2:賃貸物件の「使用権原」がない
見落としがちですが、発覚すると致命的になるのが「使用権原(その場所を事務所として使って良いという権利)」の問題です。
【NG実例】
- 賃貸マンション(アパート)で申請しようと「賃貸借契約書」を確認したら、使用目的欄が「居住専用」となっていた。
- 家族(親や配偶者)が所有する家だが、口約束だけで借りている。
【NGの理由】
契約上「居住専用」となっている場所で営業活動を行うことは、大家(オーナー)に対する契約違反(又貸しや目的外使用)にあたります。そんな不安定な場所を、建設業の「本拠地=営業所」として行政は認可できません。また、家族名義であっても、申請者(法人または個人事業主)が適法に使用できる権利を客観的に証明する必要があります。
盲点3:物理的な「設備」が整っていない
「今はスマホとノートPCさえあれば仕事はできる」という現代の感覚は、建設業許可の審査では通用しません。
【NG実例】
- 契約書や図面を保管するための「鍵付きキャビネット(書庫)」がない。
- コスト削減のため、住所だけを借りる「バーチャルオフィス」で申請しようとした。
【NGの理由】
建設業は数百万、数千万円の契約を扱う事業です。見積書や図面を作成・印刷する「PC・プリンタ」は、事業を営む上での最低限の設備と見なされます。また、バーチャルオフィスは「実体」がなく、経管や専技が「常勤」できないため、建設業許可の営業所としては100%認められません。
【最重要】自宅兼事務所で許可を取るための「クリア条件」
では、これらのNGを回避し、行政庁の審査を一発でクリアするためには、何を準備すればよいのでしょうか。具体的な対策を解説します。
対策1:「独立性」を確保する(物理的な区画整理)
「生活」と「仕事」の空間を、物理的に完全に分離することが鉄則です。
- ベストな状態:
居住スペースとは別に「事務所専用の個室」が用意されている。 - 次善の策(ワンルーム等の場合):
パーテーション、本棚、キャビネット等を使い、床から天井(またはそれに近い高さ)までを明確に仕切り、誰が見ても「ここからが事務所」と分かるように区画する。 - 動線の確保:
玄関から事務所スペースまで、居住空間(リビングなど)を通らずに直接アクセスできる間取りが理想です。それが難しい場合でも、事務所スペースがドアなどで明確に区切られている必要があります。
対策2:「使用権原」を証明する(契約書の確認と承諾書)
申請者がその場所を適法に使用できる権利を、「紙」で証明しなければなりません。
- (A)自己所有(申請者本人)の場合:
法務局で取得する「建物の登記事項証明書(登記簿謄本)」でOKです。 - (B)家族名義(親や配偶者など)の場合:
所有者(例:親)から、申請者(例:息子)に対し、「当該物件を建設業許可の営業所として使用することを承諾します」という内容の「使用承諾書」(押印済)を作成してもらう必要があります。 - (C)賃貸物件の場合(最重要):
まず「賃貸借契約書」の使用目的欄を確認します。「事務所使用可」「SOHO可」となっていれば、その契約書(写し)を提出します。
もし「居住専用」となっていたら、絶対に諦めないでください。大家さんまたは管理会社に連絡し、「建設業許可の営業所として使用したい」と交渉し、「使用承諾書」(押印済)をもらいます。これが取得できれば、契約書が「居住専用」でも申請は受理されます。
対策3:「証拠写真」と「図面」を完璧に準備する
申請が受理されるかどうかは、担当者が納得する「証拠写真」と「図面」にかかっています。「準備しました」と口で言うだけではダメです。
【必須の証拠写真リスト】
- 建物外観: 建物全体の写真。
- 営業所の入口(表札):
- 集合住宅の場合:集合ポスト(会社名または屋号の表示が必須)
- 玄関ドア(会社名または屋号の表札が必須)
- 事務所の内部(全景):
これが最重要です。「机」「椅子」「固定電話」「PC」「プリンタ(または複合機)」「鍵付きキャビネット(書庫)」が1枚の写真に収まるように撮影します。 - 独立性の証明:
自宅兼事務所の場合、居住スペースと事務所スペースを区切っている「パーテーション」や「ドア」が明確に写る写真。
【必須の図面】
- 営業所の平面図(レイアウト図):
手書きでも構いません。事務所スペースのどこに机、電話、キャビネット等が配置されているかを明記します。 - 自宅兼事務所の場合:
家全体の簡単な間取り図も併記し、「ここが事務所スペース」「ここが居住スペース」と色分けするなどして、独立性を図面上でも明確に示します。
結論:「営業所要件」は“知っているか”の差。「準備」で決まる
「経営業務の管理責任者」や「専任技術者」の要件が奇跡的にクリアできても、「営業所」という物理的な準備不足で申請が数週間も遅れてしまうのは、本当にもったいないことです。
特に「賃貸借契約書」の交渉や「パーテーション」の設置は、今日明日でできることではありません。許可取得を決意したら、人やお金の要件を心配すると同時に、「まず、事務所の賃貸借契約書を確認する」ことから始めてください。
これらの「落とし穴」は、すべて「知っていれば」回避できるものばかりです。しかし、ご自身で申請準備を進めていると、何が正解なのか、どのレベルの準備(写真や図面)が求められているのかが分からず、何度も行政庁の窓口に足を運び、そのたびに「補正(差し戻し)」を命じられ、疲弊してしまうことになりかねません。
私たち建設業許可専門の行政書士は、審査官が「何を」「どのような形」で求めているかを熟知しています。御社の事務所の状況(間取り、契約書)をヒアリングし、必要な準備(承諾書の取得、写真撮影のポイント指示)を申請前に完璧にナビゲートすることで、無駄な差し戻しを防ぎ、「最短」での許可取得を実現します。
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