「建設業許可を取得したいが、専任技術者(センギ)の要件がクリアできない」
「『実務経験10年』を証明するなんて、昔の契約書や請求書が揃っていなくて不可能だ…」

建設業許可の取得を目指す多くの事業者様が、この「専任技術者」の要件、特に「実務経験10年」の壁の前で立ち往生しています。10年分=120ヶ月分の工事実績を、契約書や請求書、通帳の入金履歴で客観的に証明する作業は、まさに「悪夢」と言えるほど煩雑です。

しかし、もしあなたが「ウチには10年の経験を証明できる資料がないから無理だ」と許可取得を諦めかけているなら、それは非常にもったいない勘違いをしているかもしれません。

許可取得の「王道」は、国家資格や学歴です。そして、あなたが「許可には使えない」と思い込んでいる資格や、従業員の「学歴」こそが、許可取得の最短ルートになる「隠れた資格」かもしれないのです。

この記事では、「実務経験10年」の呪縛からあなたを解放し、あなたの会社に「既に眠っている」専任技術者の要件を掘り起こすための、実務的な方法を徹底解説します。


なぜ「実務経験10年」の証明は“地獄”なのか?

まず、なぜ「実務経験10年」での証明がこれほど難しいのかを再確認しましょう。「行政庁(東京都など)は「俺はこの道15年のベテランだ」という自己申告を一切認めてくれません。

求められるのは、その10年間(=120ヶ月間)、継続してその建設工事に従事していたことを証明する「客観的な証拠」です。この「証拠集め」が、想像を絶するほど大変なのです。

「10年」の壁を構成する“絶望”

  • 客観的資料の山: 過去10年分の「工事請負契約書」「注文書・請書」または「請求書控え+対応する入金通帳」が原則として毎月分必要になります。
  • 資料の散逸: 「7年前の請求書なんて廃棄した」「元請けとの取引で契約書は交わしていなかった」「通帳を紛失した」など、10年という長期間の資料を完璧に保存している会社は稀です。
  • 証明元の廃業: 過去に勤務していた会社が倒産・廃業していると、その期間の経験を証明(様式第9号)してもらうことが極めて困難になります。

このハードルが高いのは、意地悪ではありません。行政庁が「許可の質を担保するため、できる限り客観的な国家資格や学歴で要件を満たしてほしい」と考えていることの裏返しなのです。


「専任技術者」の王道。3つの正規ルートとは

「建設業許可申請の手引」には、専任技術者の要件として、主に3つのルートが明記されています。「10年経験」はその一つに過ぎません。簡単な順に見ていきましょう。

ルート1:国家資格等【これが最強・最速】

「1級・2級建築施工管理技士」「1級・2級土木施工管理技士」「建築士」といった、建設業法で定められた国家資格を保有している場合です。これが最強のルートです。

メリット:資格証のコピーを提出するだけで、実務経験の証明は一切不要です(※)。社長ご自身、あるいは常勤の従業員がこの資格を持っていれば、即座に要件をクリアできます。
※一部の資格(電気工事士など)では、資格取得後の実務経験が別途必要な場合があります。

ルート2:学歴 + 実務経験【第1の「隠れた資格」】

これが、多くの人が見落としている「隠れた資格」の筆頭です。

高校、大学、専門学校などで「指定学科」を卒業している場合、必要な実務経験が10年から大幅に短縮されます。

  • 大学・高等専門学校(高専)の「指定学科」卒業 + 実務経験3年
  • 高等学校・中等教育学校の「指定学科」卒業 + 実務経験5年

10年と比べ、3年や5年の実務経験証明(契約書や請求書)なら、資料が揃っている可能性は格段に高まります。「10年は無理でも5年分ならある」という会社は非常に多いのです。

ルート3:実務経験10年【最後の手段】

上記ルート1(国家資格)もルート2(学歴)も使えない場合に、初めて検討するのがこの「実務経験10年」です。いかにこれが「最後の手段」であるか、お分かりいただけたかと思います。


【実録】あなたの会社に眠る「隠れた資格」3つのパターン

では、具体的にどのような「隠れた資格」があなたの会社に眠っている可能性があるのか。実務でよくある3つのパターンをご紹介します。

パターン1:「学歴」という最強の“資格”を掘り起こす

前述のルート2(学歴+経験)は、最も見落とされがちなポイントです。社長ご自身が「自分は高卒だから」と諦めていても、その「工業高校の学科」こそが要件クリアの鍵かもしれません。

「指定学科」とは、例えば以下のような学科が該当します。

  • 土木工事業、とび・土工工事業、ほ装工事業など
    → 土木工学、都市工学、建築学、交通工学 など
  • 建築工事業、大工工事業、内装仕上工事業など
    → 建築学、都市工学 など
  • 電気工事業、電気通信工事業
    → 電気工学、電気通信工学、情報工学 など
  • 管工事業
    → 機械工学、建築学、土木工学 など

学科名は学校によって様々です。「都市デザイン科」「環境システム科」といった名称でも、履修内容が土木や建築に関するものであれば指定学科と認められる可能性があります。

【今すぐ確認!】
社長ご自身、役員、そして全従業員の「履歴書」と「卒業証明書」を確認してください。「〇〇工業高校 建築科 卒」「〇〇大学 工学部 土木工学科 卒」といった従業員はいませんか?

例えば、建築科の高校を卒業して5年目の常勤従業員がいれば、その方は「建築一式」「大工」「内装」など多くの業種の専任技術者になれるのです。彼こそが、10年の経験証明を不要にしてくれる「宝」かもしれません。

パターン2:その資格、「専門外」の業種も取れます

「ウチは塗装屋だから、塗装の資格しか意味がない」と思い込んでいませんか?建設業許可制度の面白いところは、一つの資格が「複数の業種」の専任技術者として認められる点です。

特に「業種追加」を狙う際、改めて10年の経験証明は必要ありません。今いる従業員の資格証を精査すれば、取りたかった業種の専任技術者が「既にいた」というケースは非常に多いのです。

【実例1:土木系】
「2級土木施工管理技士(土木)」の資格を持っている従業員がいれば…
→「土木工事業」はもちろん、「とび・土工・コンクリート工事業」「石工事業」「ほ装工事業」「水道施設工事業」の専任技術者にもなれます(※業種追加の場合)。

【実例2:建築系】
「2級建築施工管理技士(仕上げ)」の資格を持っている従業員がいれば…
→「大工工事業」「内装仕上工事業」「塗装工事業」「防水工事業」「左官工事業」「屋根工事業」「タイル・れんが・ブロック工事業」「熱絶縁工事業」「ガラス工事業」「建具工事業」など、非常に多くの「仕上げ」関連業種の専任技術者になれます。

「とび・土工」の許可を持っている会社が「ほ装」や「水道」も取りたい、と考えた時、10年の経験証明は不要かもしれません。その「2級土木」の資格が全てを解決してくれるのです。

パターン3:「施工管理」以外の“現場資格”を見逃さない

「専任技術者=施工管理技士か建築士」という思い込みも危険です。「建設業許可Q&A」には、施工管理技士以外の多くの「現場資格」が記載されています。

これらこそ、まさに「隠れた資格」です。従業員が日々の業務のために取得していても、社長が「それが許可に使える」と認識していないケースが散見されます。

【実例1:電気工事】
「第一種電気工事士」または「第二種電気工事士」
→ 免状交付後、実務経験3年で「電気工事業」の専任技術者になれます。「二種電工」は多くの職人さんが持っています。3年の経験証明は10年に比べれば格段に容易です。

【実例2:管工事】
「給水装置工事主任技術者」(水道局の指定工事店に必要な資格)
→ 資格取得後、実務経験1年で「管工事業」の専任技術者になれます。

「技能検定(1級・2級配管技能士など)」
→ 2級でも合格後実務経験3年で「管工事業」の専任技術者になれます。

【実例3:消防施設工事】
「甲種消防設備士」または「乙種消防設備士」
→ 資格取得後、即(実務経験0年)で「消防施設工事業」の専任技術者になれます。

【実例4:解体工事】
「解体工事施工技士」(登録試験)
→ 合格後、即(実務経験0年)で「解体工事業」の専任技術者になれます。

あなたの会社の従業員が保有する「資格者証一覧」をもう一度見直してください。そこに「専任技術者」が眠っている可能性は十分にあります。


結論:「10年」で諦める前に、専門家と「資格棚卸し」を

「実務経験10年」の壁に跳ね返され、許可取得を諦める…。これほどもったいないことはありません。繰り返しになりますが、10年の経験証明は「最後の手段」です。

その前に、やるべきことがあります。それは、あなたの会社にある「人材」という資産を棚卸しすることです。

  1. 社長、役員、全従業員の「卒業証明書(学科名)」を確認する
  2. 全従業員が保有する「資格者証(施工管理以外も含む)」をリストアップする

とはいえ、集めた資料が本当に「指定学科」に該当するのか?この資格であの業種が取れるのか?「Q&A」や「手引」の膨大な資料を読み込み、東京都のローカルルールに照らして判断するのは、非常に複雑な作業です。

そこは私たち行政書士の専門分野です。「10年経験」という茨の道を選ぶ前に、ぜひ一度、あなたの会社に眠る「隠れた資格」を探すお手伝いをさせてください。許可取得への最短ルートが、すぐそこに見つかるかもしれません。

「10年の資料がなくて困っている」社長様へ

その従業員の「学歴」や「資格」で許可が取れるかもしれません。

当事務所では、「ウチの従業員のこの資格は使えるか?」「この学科の卒業証書があるが、何年の経験で済むか?」といった、専任技術者要件に関する無料診断を実施しております。

社長ご自身の経歴、従業員の履歴書、資格者証をご準備の上、ご相談ください。「実務経験10年」という困難な道を通らずに済む、最短の許可取得ロードマップをご提案します。