建設業を営む多くの事業者様、特に一人親方や小規模な工務店の社長様から、「うちは500万円以上の工事はしないから、建設業許可は必要ないですよね?」というご相談を非常によくいただきます。
確かに、建設業法では「500万円未満の軽微な工事」のみを請け負う場合は、建設業許可は不要とされています。この「500万円の壁」を基準に、許可取得を見送っている方も多いでしょう。
しかし、その判断は本当に「大丈夫」でしょうか?
近年、この「500万円未満だから大丈夫」という考え方が、大きなビジネスチャンスを逃したり、会社の信用力を低下させたりする原因となっています。法律上は問題なくても、取引の現場では「許可がない」という事実が大きな足かせになるケースが急増しているのです。
この記事では、「500万円未満」という法律の基準だけを信じていることの危険性と、法律論とは別に「今すぐ」建設業許可が必要になる3つの具体的なケースについて、建設業専門の行政書士が徹底的に解説します。
まずはおさらい:「500万円の壁」の正しいルール(建設業法第3条)
本題に入る前に、法律上の「許可が不要な工事(軽微な工事)」の定義を正確におさらいしておきましょう。多くの方が誤解しているポイントも含まれています。
建設業法第3条では、以下の工事のみを請け負う場合は、建設業許可を取得する必要がないと定められています。
- 建築一式工事の場合:
工事1件の請負代金が1,500万円(税込)未満の工事。または、請負代金にかかわらず、木造住宅で延べ面積が150平方メートル未満の工事。 - 建築一式工事以外の工事(専門工事)の場合:
工事1件の請負代金が500万円(税込)未満の工事。
絶対に間違えてはいけない「500万円」の注意点
ここで重要な注意点が3つあります。
1. 「税込」であること
「500万円」や「1,500万円」という金額は、消費税込みの金額です。「税抜で480万円だったからセーフ」と思っていても、税込で528万円になっていれば、それは「許可が必要な工事」であり、無許可営業(建設業法違反)となります。
2. 「材料費込み」であること
元請けから材料の支給を受けた場合、その「材料の市場価格」や「運送費」なども請負代金に含めて計算しなければなりません。「請負金額は400万円だったが、元請けから200万円分の材料支給があった」という場合、合計600万円の工事とみなされ、許可が必要です。
3. 「工事を分割」しても無意味であること
「1,000万円の工事だけど、500万円ずつの契約書2本に分ければ大丈夫」といった脱法的な行為は認められません。実質的に一つの工事であれば、合計金額で判断されます。
これらのルールを知らずに「うっかり500万円を超えていた」というだけでも、無許可営業として重い罰則(懲役や罰金)の対象となり、その後5年間は許可が取れなくなる(欠格要件)という最悪の事態を招きます。
「500万円未満」でも許可が必要になる3つのケース
さて、ここからが本題です。たとえ上記の法律ルールを完璧に守り、500万円(税込)未満の工事しか請け負っていなかったとしても、現実のビジネスシーンでは「建設業許可」が「今すぐ」必要になる場面があります。
それは、法律論ではなく「信用力」や「取引条件」の問題です。
ケース1:元請け・取引先から「コンプライアンス」で要求されるケース
これが、近年最も増えている理由です。あなた自身は「500万円未満だから法律違反じゃない」と主張しても、取引先がそれを許してくれないのです。
なぜ元請けは許可を要求するのか?
大手ゼネコンや中堅の建設会社、ハウスメーカーなどは、年々「コンプライアンス(法令遵守)」に対する意識を非常に高めています。
彼らにとって、下請業者が「許可を持っているか」は、その業者が「安定した経営をしているか」「法律を守る意識があるか」「反社会的勢力と繋がりがないか(欠格要件)」を判断する、最低限のスクリーニング(足切り)基準になっています。
元請けの担当者も、法律上500万円未満なら許可が不要なことは知っています。しかし、万が一、無許可の業者に仕事を依頼し、その業者が工事を放棄したり、事故を起こしたりした場合、「なぜあんな(許可もない)業者を使ったんだ」と発注者や社会から厳しい責任を追及されるリスクを負っています。
そのため、「取引先は建設業許可業者に限る」という社内ルールを設け、500万円未満の小さな工事であっても、無許可の業者とは一切取引しない、という企業が急増しているのです。
「許可がない」だけで失う大きなチャンス
「今までの付き合いがあるから大丈夫」と思っていても、ある日突然、元請けの担当者から「会社のルールが変わって、来月から許可業者としか取引できなくなった。申し訳ないが、許可を取るまで仕事は出せない」と通告される事例が後を絶ちません。
あなたがどれほど高い技術力を持っていても、「建設業許可」という一枚の紙がないだけで、長年の取引先や、新規の大口案件を失う危険性が常にあるのです。
ケース2:金融機関からの「融資」や「信用評価」で不利になるケース
2つ目のケースは「資金調達」の場面です。
事業を拡大するために、新しい重機を購入したい、従業員を増やしたい、といった場面で金融機関(特に日本政策金融公庫や銀行の制度融資)に融資を申し込むことがあるでしょう。
その際、金融機関の担当者は「御社は建設業許可をお持ちですか?」と必ず質問します。
許可証は「公的なお墨付き」
金融機関にとって、建設業許可証は「行政庁が、その会社の経営体制や技術力を審査した上で発行した、公的なお墨付き」と映ります。
許可を取得するには、
- 経営経験(5年以上など)を持つ「経営業務の管理責任者」
- 国家資格や実務経験を持つ「専任技術者」
- 財産的基礎(500万円以上)
- 誠実性(過去に不正などがない)
といった厳しい要件をクリアしなければなりません。
つまり、「許可を持っている」という事実は、それだけで「しっかりとした経営基盤があり、法律を守って事業を行う、信用に足る会社である」という強力な証明になるのです。
無許可は「将来性がない」と見なされるリスク
逆に、「許可を持っていない」場合、たとえ500万円未満の工事しかしていなくても、融資担当者からは「今後も500万円以上の仕事を受注できず、事業を拡大する気がない会社なのかな?」あるいは「要件をクリアできない、何か問題のある会社なのかな?」と見られてしまう可能性があります。
建設業許可がないことが直接の原因で融資が否決されることはなくても、審査における「信用評価」の面で、許可業者に比べて不利な立場に置かれることは間違いありません。
ケース3:「公共工事」の入札に参加したい(経審を受けたい)ケース
3つ目は、事業の安定性を求めて「公共工事」への参入を検討する場面です。
「民間工事は景気に左右されるから、安定した公共工事も受注できるようにしたい」と考える事業者様は多いです。しかし、公共工事の入札に参加するためには、大前提となる条件があります。
経審(経営事項審査)のスタートライン
公共工事の入札に参加するには、まず「経営事項審査(経審)」という審査を受け、自社の経営状態や技術力を点数化(評点)してもらう必要があります。
そして、この経営事項審査を受けるための絶対条件が、「建設業許可を取得していること」なのです。
たとえそれが100万円の小さな公共工事であったとしても、建設業許可がなければ、入札に参加するスタートラインにすら立てません。「500万円未満だから許可はいらない」というルールは、公共工事の世界では一切通用しないのです。
将来的に少しでも公共工事への参入を考えているのであれば、「500万円未満」かどうかに関わらず、建設業許可の取得は必須となります。
「あの時とっておけば…」事業者が後悔した実例
実際に、許可取得を見送っていたために、大きなチャンスを逃した事例をご紹介します。
事例:塗装工事業A社の場合
A社は高い技術力で評判の塗装業者でしたが、「大きな工事はやらない」という方針で許可は未取得でした。ある日、付き合いのある工務店から「取引先のビルの大規模修繕(請負額800万円)をA社に任せたい」という絶好のオファーが来ました。A社の社長は慌てて建設業許可の取得を試みましたが、許可取得には申請から1ヶ月以上の審査期間がかかります。「今すぐ許可がなければ発注できない」と言われ、結局その仕事はライバルの許可業者に流れてしまいました。「あの時すぐ許可を取っておけば800万円の仕事が…」と、今も後悔しているそうです。
建設業許可は、申請の準備(要件の確認、書類収集)にも時間がかかります。「仕事が決まってから慌てて取得しよう」としても、絶対に間に合わないのです。
まとめ:「500万円未満」は安全地帯ではない。チャンスを掴む経営戦略としての許可取得を
法律上「500万円未満」の工事に許可が不要なのは事実です。しかし、それは「許可がなくても事業がうまくいく」ことを保証するものではありません。
現実のビジネスでは、
- 元請けや取引先が「信用」の証として許可を要求する
- 金融機関が「事業の安定性」の証として許可を評価する
- 公共工事が「入札参加資格」として許可を要求する
という「法律以外の壁」が存在します。
「500万円未満だから大丈夫」という考え方は、これらの大きなビジネスチャンスをすべて放棄し、事業の成長を自ら止めてしまっている状態とも言えます。
建設業許可は、違反を罰するための「規制」であると同時に、御社の信用力を公的に証明し、受注拡大や資金調達を有利にするための「武器」でもあります。
「ウチでも許可要件を満たせるだろうか?」「専任技術者になれる資格者がいない…」「経営経験をどう証明すれば?」といった不安があるかもしれません。許可取得の要件は複雑ですが、専門家である行政書士がサポートすることで、クリアできる道筋が見つかるケースがほとんどです。
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