こんにちは。行政書士のおくだいらです。
当事務所は、東京都で建設業許可や補助金申請サポートを専門としており、特に多摩地域(府中市・立川市・国立市など)の事業者様から多くのご相談をいただいております。

2025年(令和7年)に入り、中小企業の皆様にとって非常に強力な新しい補助金、「中小企業新事業進出促進補助金(新事業進出補助金)」が本格的にスタートしました。

「これは、ものづくり補助金と何が違うのか?」
「建設業や製造業でも使えるのか?」
「自社の計画はどちらで申請すべきか?」

多くの経営者様が、この新しい大型補助金と「ものづくり補助金」との違いについて悩まれています。

結論から申し上げますと、この2つは目的も要件も全く異なる補助金です。特に「新事業進出補助金」は、要件が非常に複雑なため、計画段階で「自社が対象になるか」を正確に見極めることが採択の絶対条件です。

この記事では、建設業・製造業の経営者様に向け、両者の決定的な違いと、「新事業進出補助金」の核となる「新市場・高付加価値事業」の考え方について、具体例を交えて徹底解説します。


第1章:最大の違いは「目的」と「対象経費」

まずは、両補助金の根本的な違いを比較します。

1. ものづくり補助金:「既存事業の革新」

ものづくり補助金は、革新的な新製品・新サービス開発や生産プロセスの改善によって「生産性を向上」させるための設備投資を支援する補助金です。

  • 目的: あくまで既存事業の延長線上にある「イノベーション(革新)」です。
  • 顧客: 既存の顧客に向けた新製品開発でも対象になります。
  • 必須経費: 「機械装置・システム構築費」が必須です。
  • 建物費: 工場の新築・改修といった「建物費」は対象外です。

2. 新事業進出補助金:「新しい事業の柱」

新事業進出補助金は、既存事業とは異なる事業への挑戦、すなわち「新市場・高付加価値事業」への進出を支援し、企業の成長と賃上げを促すことが目的です。

  • 目的: 既存事業とは異なる「第二の創業」のような「新事業(多角化)」です。
  • 顧客: 原則として「既存の顧客とは異なる市場」を狙う必要があります。
  • 必須経費: 「機械装置・システム構築費」または「建物費」のいずれかが必須です。
  • 建物費: 新工場の建設、新店舗の改修、既存設備の撤去費用など「建物費」が対象になります。
  • 広告宣伝費: 新規事業のPRに必要な「広告宣伝・販売促進費」も対象です。

比較早わかり表

比較項目ものづくり補助金新事業進出補助金
目的既存事業の革新・生産性向上既存事業と異なる新事業への進出
顧客層既存顧客でも可新規顧客である必要あり
建物費
(建設・改修)
対象外対象
広告宣伝費対象外(一部例外除く)対象
補助率1/2 (小規模事業者は2/3)1/2
補助金額750万〜2,500万円(通常枠)750万〜最大7,000万円(規模による)

【行政書士の視点】
建設業・製造業の皆様にとって、「建物費(工場の新築・増改築、新店舗の開設)」が対象になる点は、「新事業進出補助金」の最大のメリットです。

ただし、「新事業進出補助金」は補助下限額が750万円です。補助率1/2のため、最低でも1,500万円(税抜)以上の投資計画でなければ申請できません。


第2章:最大の関門!「新事業進出」の3つの絶対要件

「新事業進出補助金」に申請するには、まず以下の3つの要件をすべて満たす事業計画でなければなりません。

1. 製品等の新規性要件

新たに製造・提供する製品やサービスが、自社にとって新しいものである必要があります。過去に製造・提供したことがあるものは対象外です。
(例:単に既存の部品の製造量を増やすだけでは対象外)

2. 市場の新規性要件

これが最難関です。新規事業の市場が、既存事業の市場とは異なる「新たな顧客層」(異なるニーズや属性を持つ顧客)である必要があります。
(例:既存の顧客が新製品に乗り換えるだけ(需要の代替)では対象外)

3. 新事業売上高要件

事業計画の最終年度において、この新規事業の売上高が、会社全体の総売上高の10%以上(または総付加価値額の15%以上)を占める見込みであること。

【行政書士の視点】
この3要件(特に「2. 市場の新規性」と「3. 売上高10%」)は、「ものづくり補助金」にはない非常に厳しい縛りです。「既存の取引先から、違う部品の注文を受けた」という計画では「2. 市場の新規性」を満たせず、申請できません。


第3章:「新市場性」vs「高付付加価値性」審査の核心

上記3つの要件をクリアした上で、事業計画はさらに「新市場性」または「高付加価値性」のどちらかに該当するものとして審査されます。

A.「新市場性」の考え方

  • 定義: 取り組む新規事業の「ジャンル・分野」自体が、社会において一般的な普及度や認知度が低いものであること。
  • 注意点: ここでいう「ジャンル」は、性能、サイズ、素材、価格帯、地域、顧客層といった要素をすべて排除して判断されます。
  • 例:
    • 〇 適切な区分: 「医療機器部品」
    • × 不適切な区分: 「高精密小型医療機器部品」(性能・サイズを排除するためNG)
    • × 不適切な区分: 「東京都港区の高級焼肉店」(地域・価格帯を排除するためNG)

【行政書士の視点】
この「新市場性」は、「昆虫食」や「宇宙開発」のように、ジャンル自体が非常に新しい事業を指します。正直なところ、ほとんどの建設業・製造業の事業計画は、この要件を満たすのが極めて困難です。

B.「高付加価値性」の考え方(こちらが本命!)

  • 定義: 取り組む新規事業が、同一の「ジャンル・分野」の中で、一般的な相場価格と比較して、高水準の「高付加価値化・高価格化」を図るものであること。
  • やるべきこと:
    1. 参入するジャンル・分野の一般的な付加価値や相場価格を調査・分析する。
    2. 自社の新製品・サービスが、その相場より高価格であり、その価格の源泉となる価値・強み(独自の技術、知見、サービスなど)があることを客観的に証明する。

【行政書士の視点】
建設業・製造業の皆様が狙うべきは、間違いなくこちらの「高付加価値性」です。自社の既存技術(強み)を応用し、別のジャンルで相場より高い価値(と価格)を持つ製品・サービスを開発する、というストーリーが王道です。


第4章:建設業・製造業のための「高付加価値事業」具体例

では、建設業・製造業が「新事業進出の3要件」を満たし、かつ「高付加価値事業」として認められる具体例を見てみましょう。

具体例1:製造業(BtoB部品メーカー)

  • 既存事業: 自動車業界(BtoB)向けに、金属プレス加工部品を製造・納入。
  • 新規事業: 自社の精密プレス加工技術(強み)を活かし、一般消費者(BtoC)向けに、独自開発したチタン製のアウトドア調理器具を開発。自社ECサイトと新設するショールーム(店舗)で販売する。
  • 補助金の活用:
    • チタン専用の新型プレス機(機械装置費)
    • ショールーム(店舗)の開設費用(建物費・改修費)
    • 一般消費者向けECサイト構築費(システム構築費)
    • 新ブランドのロゴ・Webサイト制作費(広告宣伝費)
  • 要件の確認:
    • 3要件: ①新製品(調理器具)、②新市場(一般消費者)、③売上高10%目標 をクリア。
    • 高付加価値性: 「調理器具」ジャンルの中で、一般的なアルミ製相場品とは一線を画す「チタン製・高精度・独自デザイン」という高付加価値・高価格な製品であることを証明。

具体例2:建設業(公共土木工事メイン)

  • 既存事業: 自治体発注(BtoG)の土木工事、道路舗装工事がメイン。
  • 新規事業: 公共工事で培った測量技術・ドローン操縦技術(強み)を活かし、民間企業(BtoB)向けに「工場・大規模プラント専用のAI診断付きドローン点検サブスクリプションサービス」を開始。サービス開発用のR&D棟を敷地内に新設する。
  • 補助金の活用:
    • 点検用R&D棟の新設費用(建物費・建設費)
    • 高解像度サーマルカメラ付きドローン、AI解析用サーバー(機械装置・システム構築費)
    • 民間企業向けサービス紹介サイト制作費(広告宣伝費)
  • 要件の確認:
    • 3要件: ①新サービス(AI診断付きドローン点検)、②新市場(民間工場オーナー)、③売上高10%目標 をクリア。
    • 高付加価値性: 「ドローン点検」ジャンルの中で、単なる空撮ではなく「AIによる自動診断・レポート作成」という高付加価値・高価格なサービスであることを証明。

まとめ

「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」は、似ているようで全くの別物です。

  • ものづくり補助金: 既存事業の延長で「革新的な製品開発」をしたい。(建物費は不要)
  • 新事業進出補助金: 新しい市場で「新しい事業の柱」を立てたい。(建物費も対象)

特に「新事業進出補助金」は、補助上限額が最大7,000万円(特例で9,000万円)と非常に大型ですが、その分「市場の新規性」や「売上高10%要件」、「高付加価値性の証明」 など、公募要領の深い読み込みと緻密な事業計画が不可欠です。

「自社のこの計画は、新事業進出の要件を満たせるだろうか?」
「建設業だが、高付加価値性をどうアピールすればいいか分からない」

おくだいら行政書士事務所では、事業者様の事業内容を深くヒアリングし、どちらの補助金が最適かの診断から、採択される事業計画書の作成まで一貫してサポートいたします。多摩地域での豊富な建設業・製造業サポート実績に基づき、あなたの挑戦を全力で後押しします。

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