建設業許可を取得しようとする際、事業者の皆様の前に立ちはだかる「最大の壁」。それが「経営業務の管理責任者(経管)」の要件です。

「元請けから許可を取れと言われたのに、社長の自分は経営経験が5年に足りない…」
「独立したばかりで、過去の経験をどう証明したらいいか分からない…」
「今まで経管だった役員が急に辞めてしまい、後任が誰もいない!」

このような理由で、許可の新規取得や更新を諦めかけていないでしょうか?

しかし、ここで諦めてしまうのは非常にもったいないことです。

実は、2020年10月の建設業法改正により、この「経管」の要件は大きく緩和されました。要件を満たすための選択肢が増え、以前なら「絶対に無理」だったケースでも、許可が取れる可能性が出てきたのです。

この記事では、建設業許可専門の行政書士が、「経管が見つからない」と絶望している方のために、最新のルールに基づいた「要件クリアのための3つの対処法」と、専門家だからこそ知る「裏ワザ」を徹底的に解説します。

そもそも「経営業務の管理責任者(経管)」とは?なぜ厳しく審査されるのか

まず、「経管」とは何なのか、なぜ行政庁(東京都など)はこれを厳しく審査するのかを理解しておきましょう。

簡単に言えば、経管とは「その会社の建設業経営に関する、十分な経験と責任を持つ役員」のことです。(※2020年の法改正で、現在は「常勤役員等」というのが正式な呼び方ですが、本記事では分かりやすく「経管」と呼ぶことにします)

建設業は、請負金額が大きく、工期が長く、多くの下請業者や労働者が関わる複雑なビジネスです。そのため、経営に関する知識や経験が乏しい人物が経営を行うと、資金繰りの悪化、工事の遅延、下請への未払いなど、深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。

行政庁は、そうした事態を防ぎ、「安定した建設業経営」ができる会社にだけ許可を与えるため、経営者の「経験」を厳しく審査するのです。

2020年法改正で「経管」要件はこう変わった!

かつては、「許可を受けたい業種で5年」または「それ以外の業種で6年(※自治体による)」の「役員経験」がほぼ必須でした。一人の人物がこの重い要件を満たす必要があったため、非常にハードルが高かったのです。

しかし、2020年10月の法改正で、この「一人のスーパーマンに依存する」制度が見直されました。

新しいルールでは、「常勤役員(社長など)」が一定の経験を持ちつつ、それを「補佐する者」を配置することで、会社全体(チーム)として経営管理能力を証明する」という道が新たに開かれたのです。

この法改正が、今回ご紹介する「対処法」の重要なカギとなります。

「経管が見つからない」よくある絶望パターン

ご相談に来られる方で、経管要件でつまずくのは主に以下のようなパターンです。

  • パターン1:独立直後
    長年、従業員(社員)として現場で活躍してきたが、役員や個人事業主としての「経営経験」はまだ2〜3年しかない。
  • パターン2:証明資料の紛失
    個人事業主として10年以上やってきたが、当時の確定申告書や、元請けとの契約書・請求書を一切保管していない。
  • パターン3:後継者不在
    先代の社長が経管だったが、引退・死亡してしまった。後を継いだ息子や妻には、建設業の経営経験がない。
  • パターン4:経管の退職
    経管要件を満たしていた役員が、急に退職してしまった。このままでは許可の更新ができない。(※退職後2週間以内に届出、6ヶ月以内に後任の補充が必要です)

これらのパターンに当てはまっても、まだ打つ手はあります。一つずつ対処法を見ていきましょう。

対処法1:【経営経験の「かき集め」】社長や役員の経歴を再点検する

まず試すべき王道は、「本当に経営経験が足りないのか?」を徹底的に洗い出すことです。ご自身では「足りない」と思っていても、専門家が見れば「この経験も合算できる!」というケースは非常に多いのです。

裏ワザ①:「役員経験」だけが経営経験ではない

「経営経験」=「取締役の登記」だけだと思っていませんか?実は、以下の経験も合算できる可能性があります。

  • 個人事業主としての経験
    法人を設立する前に、個人事業主として建設業を営んでいた期間は、経営経験として認められます。(確定申告書B表などで証明)
  • 「執行役員」「支店長」等の経験
    取締役(役員)でなくても、「執行役員」「支店長」「営業所長」など、建設業の経営業務全般について実質的に権限を委任されていた経験も認められるようになりました。(※法改正のポイント)
  • 他社の役員経験
    今の会社だけでなく、過去に別の建設会社で「非常勤」でも役員だった期間があれば、常勤の役員経験と組み合わせて証明できる場合があります。

例えば、「個人事業主として3年」+「法人設立して役員として2年」=合計5年、といった合算が可能です。

裏ワザ②:「5年」にこだわるな!「6年」の緩和要件を使う

経管の要件は、原則「許可を受けたい業種での経営経験が5年以上」です。しかし、これが満たせない場合でも、

「許可を受けたい業種以外の建設業で、6年以上(※)の経営経験」

があればクリアできます。(※自治体により7年。多摩地域・東京都は6年で運用されているケースが多いです)

例えば、「内装仕上工事」の許可が取りたいが、内装の経営経験は3年しかない…という場合でも、過去に「塗装工事業」や「大工工事業」で合計6年以上の経営経験(個人事業主時代も含む)があれば、要件を満たせるのです。

裏ワザ③:証明資料がない場合の「立証テクニック」

最大の難関が「証明資料がない」ケースです。特に個人事業主時代や、古い経験を証明する場合、契約書や請求書が残っていないことはよくあります。

しかし、行政書士はここで諦めません。以下の資料を「組み合わせて」立証する道を探ります。

  • 確定申告書(B表):事業所得があったことの証明
  • 工事経歴書(当時のもの):どんな工事をしていたかの証明
  • 銀行通帳(当時のもの):元請けからの入金履歴(工事の実態証明)
  • 元請けや発注者からの「証明書」:当時、確かに工事を発注していたという第三者の証明
  • 社会保険の加入記録:常勤性の証明

一つの資料で完璧に証明できなくても、複数の資料をパズルのように組み合わせ、「この期間、確かに建設業を経営していた」と行政庁を納得させることができれば、許可の可能性は残っています。

対処法2:【チームでクリア】「補佐経験」を合算して要件を満たす(法改正の目玉)

対処法1を駆使しても、社長一人の経験ではどうしても足りない…!
そこで登場するのが、2020年の法改正で認められた「チームでクリアする」方法です。

これは、「常勤役員(社長など)」の経験が少し足りなくても、その足りない部分をカバーする「補佐する者(従業員でもOK)」を配置することで、会社全体として経営管理能力があると認めてもらう制度です。

「常勤役員 + 補佐する者」体制のパターン

非常に複雑ですが、代表的なパターンは以下の通りです。

パターンA:経験を「合算」する
常勤役員(社長)に「建設業の役員経験が2年以上」あり、かつ、その社長を直接補佐する「財務管理」「労務管理」「業務管理」の各分野で5年以上の実務経験を持つ者(従業員でも可)を配置する。

【具体例】
社長は独立して法人役員になってから3年(5年に足りない)。しかし、長年、別の建設会社で経理担当だったAさん(経理実務経験5年以上)が自社にいる。このAさんを「財務管理の補佐者」として配置することで、経管要件をクリアできる可能性があります。

パターンB:経験を「分担」する
常勤役員(社長)に「建設業以外の役員経験」が5年以上あり、かつ、その社長を直接補佐する「建設業の役員経験が5年以上」ある者を配置する。

【具体例】
社長は飲食業で10年の経営経験があるが、建設業の経営は未経験。しかし、役員として「建設業の役員経験5年」のB氏を迎える。このB氏を「補佐者」とすることで、社長が建設業未経験でも要件をクリアできる可能性があります。

この方法のメリットと注意点

メリット:
社長一人の経歴に依存せず、会社の「組織力」で要件をクリアできます。後継者問題(社長は変わるが、ベテラン経理部長が補佐する)の解決にも繋がります。

注意点:
「補佐する者」の実務経験(5年以上)を証明する資料(組織図、業務分掌規程、社会保険の加入記録、実務経験証明書など)が別途必要になります。ハードルは決して低くありませんが、以前は「不可能」だったことが「可能」になった、非常に大きな改正です。

対処法3:【外部からの登用】経管要件を満たす人物を「常勤役員」として迎える

対処法1・2のいずれも使えない場合の最終手段が、「社外から要件を満たす人を探してくる」ことです。

「常勤役員」として採用する

具体的には、以下のような人物を探し、自社の「常勤の役員(取締役など)」として採用(登記)します。

  • 他の建設会社で役員経験が5年以上ある人物
  • 建設業の個人事業主を5年以上やっていたが、廃業・引退を考えている人物
  • 同業他社で支店長や営業所長を長年務めていた人物

絶対条件は「常勤性」。名義貸しは厳禁!

この方法で最も重要な注意点は、絶対に「名義借り」であってはならないということです。

「名前だけ役員として登記して、実際には出勤しない」という行為は、明らかな「虚偽申請」です。発覚すれば許可が即時取り消されるだけでなく、5年間の欠格要件に該当し、罰則(懲役や罰金)の対象にもなります。

行政庁は「常勤性」を厳しく審査します。具体的には、

  • 社会保険に(自社で)加入しているか?
  • 住民票が会社の近くにあるか?
  • 源泉徴収票や出勤簿、給与台帳が整備されているか?

などを確認します。毎日会社に出勤し、経営に実質的に関与している実態がなければ、「経管」とは認められません。

信頼でき、かつ要件を満たす人物を探すのは非常に困難であり、役員報酬という固定費も発生するため、これは最終手段と言えるでしょう。

まとめ:経管要件は複雑化。諦める前に「許可のプロ」に相談を

「経営業務の管理責任者(経管)」の要件は、2020年の法改正で確かに緩和されました。しかし、それは「簡単になった」という意味ではなく、「選択肢が増えた代わりに、証明方法がより複雑になった」ということです。

「うちは経管がいないから無理だ」と自己判断で諦めてしまう前に、以下のポイントがないか、もう一度ご確認ください。

  1. 社長や役員の経歴を「かき集め」れば、5年または6年の経験にならないか?(個人事業主、支店長経験など)
  2. 証明資料がなくても、通帳や第三者の証明で「立証」できないか?
  3. 社長の経験が足りなくても、「補佐する者」の経験と合算できないか?(法改正のポイント)