「民間工事だけでは経営が不安定だ。安定した公共工事に参入したい」
「建設業許可は取得したが、次の一手として入札に参加したい」
そうお考えの建設事業者様にとって、避けては通れない関門が「経営事項審査(経審)」です。公共工事を受注するためには、この「経審」を受け、自社の「成績表」である総合評定値(P点)を取得しなければなりません。
しかし、多くの事業者様が、この経審を「決算書を提出すれば、勝手にもらえる点数」と誤解されています。その結果、本来もらえるはずの点数を大量に取りこぼし、「入札に参加はできるが、全く落札できない」という事態に陥っています。
経審は「受ける」ものではなく、「戦略的に攻略する」ものです。評点を1点でも多く積み上げることが、受注額のアップ、ひいては安定経営に直結します。
この記事では、ご提供いただいた東京都の「経営事項審査申請說明書(経審手引き)」や「建設業許可の手引」に基づき、経審の評点を具体的に引き上げるための「実務的な戦略」を徹底的に解説します。
経審(経営事項審査)とは?「P点」があなたの会社の「戦闘力」
経営事項審査(経審)とは、公共工事の入札に参加しようとする建設業者の経営状況、経営規模、技術力、社会性などを客観的に審査し、点数化する制度です。この審査結果が「総合評定値(P点)」として通知されます。
発注機関(国や東京都など)は、この「P点」を基準に業者をランク付けし、「Aランクの会社にはこの規模の工事を発注する」といった形で入札の参加資格を決定します。つまり、P点こそが、公共工事市場における御社の「客観的な戦闘力」そのものなのです。
P点は、主に以下の4つの要素で構成されています。
- X点(経営規模): 完成工事高、自己資本額、利益額など
- Y点(経営状況): 財務の健全性(自己資本比率、流動比率など)
- Z点(技術力): 業種ごとの技術職員(有資格者)数
- W点(その他の審査項目・社会性等): 社会保険加入、CCUS、建退共、コンプライアンスなど
売上(X点)を急に2倍にするのは困難ですが、「Z点」や「W点」は、経営者の戦略的な判断と日々の管理で、確実に引き上げることが可能です。まずは「取りこぼし」をゼロにし、着実に評点を積み上げる戦略を見ていきましょう。
戦略1:【最優先】失点を防ぐ。「W評点(社会性等)」の徹底対策
経審で最も「もったいない」失点が、このW評点です。「経審手引き」でも詳細に解説されていますが、これは「法令遵守」や「建設業界への貢献」を評価する項目です。対策さえすれば加点されるものが多く、対策しないことは「減点」と同義です。
①「社会保険(雇保・健保・厚年)」の加入は絶対条件
これは戦略以前の「大前提」です。「経審手引き」にも明記されていますが、社会保険(雇用保険、健康保険、厚生年金保険)に未加入の場合、W評点で壊滅的な減点を受けます。
建設業許可の維持においても社会保険加入は必須条件となっており、未加入のままでは公共工事の入札参加は事実上不可能です。即時加入してください。
②「建設キャリアアップシステム(CCUS)」は“今すぐ”登録・活用する
「経審手引き」(令和6年8月版 P.33-34参照)でも、CCUSの活用がW評点の加点項目として大きく取り上げられています。これは「やれば加点」されるボーナスポイントです。
- 事業者登録: まずはCCUSに事業者として登録します。
- 技能者登録: 雇用する技術者・技能者を登録します。
- 現場の活用: 元請・下請として、現場でCCUSを活用(就業履歴の蓄積)します。
これらを行うだけでW評点が加算されます。競合他社が対応していない今こそ、差をつけるチャンスです。
③「建退共」と「労災上乗せ保険」は必須コストと心得る
「経審手引き」(P.26参照)によれば、建設業退職金共済(建退共)への加入や、法定外労働災害補償制度(労災の上乗せ保険)への加入もW評点の加点対象です。これらは従業員の福利厚生であると同時に、会社の評点を上げる「戦略的コスト」です。未加入であれば、すぐに加入を検討すべきです。
戦略2:【中期的】評点を積み上げる。「Z点(技術力)」と「Y点(経営状況)」
W評点で足場を固めたら、次は評点の「上積み」を狙います。特に「Z点(技術力)」は、経営者の投資次第で大きく伸ばせる項目です。
① Z点(技術力)の最大化:資格者は「会社の資産」である
Z点は、業種ごとの「技術職員数」と「元請完成工事高」で評価されます。「経審手引き」(P.22-23参照)の評点テーブルを見ても、技術職員(1級・2級の施工管理技士など)の数が評点に直結することがわかります。
- 戦略:従業員の資格取得を支援する
若手従業員に専門学校の学費を補助したり、資格手当を厚くしたりして、2級・1級の国家資格取得を強力にバックアップします。従業員1人が資格を取るだけで、会社のP点が数点上がることも珍しくありません。これは最も費用対効果の高い「Z点」への投資です。 - 戦略:技術職員名簿を精査する
「経審手引き」(P.22)にある通り、技術者は申請する業種の「専任」である必要があります。どの資格者をどの業種の技術者として登録するか、重複のルールはどうか、といった名簿の管理・申請は非常に複雑です。この割り振りを間違えるだけでZ点を損しているケースもあるため、専門家による精査が不可欠です。
② Y点(経営状況)の改善:脱・どんぶり勘定
Y点は「登録経営状況分析機関」が審査する財務の健全性です。「経審手引き」の表紙にも記載がある通り、財務諸表の作成が根幹となります。自己資本比率、流動比率、利益率など8つの指標で評価されます。
- 戦略:税理士と「経審対策」の打ち合わせを行う
決算を「税務申告のため」だけに組んでいませんか?「Y点」を上げるには、例えば「役員借入金を資本金に振り替えて自己資本比率を上げる」「不要な短期借入を減らして流動比率を改善する」といった財務戦略が必要です。顧問税理士と行政書士が連携し、「経審に強い決算書」を作る意識がY点アップの鍵です。
戦略3:【長期的】結果として「X点(経営規模)」を引き上げる
X点(経営規模)は、主に「完成工事高(X1)」で評価されます。これは過去の売上であり、直接操作することはできません。
しかし、戦略1(W点)と戦略2(Z・Y点)を実行し、P点が上がればどうなるでしょうか?
今まで参加できなかった「より大きな規模」の入札に参加できるようになり、落札の確率も上がります。その結果、受注額が増え、完成工事高(X1)が上昇します。そして、翌年の経審では、上昇したX1点が反映され、さらにP点が上がる…という「成長の好循環」が生まれるのです。
受注額をアップさせる戦略とは、いきなりX点を狙うことではありません。まずW・Z・Yの各評点を戦略的に引き上げ、その「結果」としてP点を高め、受注(X点)に繋げることなのです。
結論:経審は「受ける」ものではなく「攻略する」もの
公共工事への参入は、御社の経営を安定させるための重要な経営戦略です。そして、その成否は「経審」の点数(P点)にかかっています。
「経審手引き」は非常に分厚く、制度も毎年複雑に改正されていきます。多くの事業者が、知らず知らずのうちにW点やZ点で大量の「取りこぼし」をしています。
「うちは社会保険に入っているから大丈夫」
「CCUS?よくわからないから後回しだ」
その「後回し」が、ライバル企業との評点差となり、落札の明暗を分けています。経審は、決算が終わってから慌てて受けるものではなく、1年をかけて戦略的に準備し「攻略」するものです。
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