建設業許可を申請する際、見落とされがちなのが「営業所の要件」です。
建設業許可では、単に登記上の住所があればよいわけではなく、実体のある営業所が存在することが求められます。
この記事では、営業所の定義から要件、証明方法、よくある落とし穴までを、行政書士の視点でわかりやすく解説します。


営業所要件とは何か

1-1. 営業所の定義(法令上の位置づけ)

建設業法第3条・第7条および関連通達により、建設業許可を受ける者は、営業所ごとに専任技術者を置くことが求められます。
この「営業所」とは、単なる名義上の事務所ではなく、継続的に建設業の営業活動を行う拠点を指します。

国土交通省の運用指針では、営業所を次のように定義しています。

「営業所とは、請負契約の締結に関する実体的な営業活動が常時行われている場所をいう。」

したがって、

  • 登記上の本店であっても、実際に営業活動をしていない場合は「営業所」として認められない
  • 逆に、登記上は支店や営業所であっても、営業実態があれば営業所と認められる
    というのが基本的な考え方です。

1-2. 「主たる営業所」と「従たる営業所」

許可制度では、申請先の区分に関して以下のように定義されています。

  • 主たる営業所:会社全体を統括する本店・本社機能を持つ拠点
  • 従たる営業所:主たる営業所以外の、各地域で実際に営業を行う支店・営業所

たとえば、東京に本社があり、神奈川に支店を持つ場合、東京が主たる営業所、神奈川が従たる営業所となります。
許可を取得する際には、どの営業所が「建設業の営業」を実際に行っているのかを明確に区別する必要があります。


営業所として認められるための実体要件

営業所として認められるには、人・場所・設備の実態が整っていることが不可欠です。

2-1. 人の要件(常勤職員の配置)

営業所には、常勤の専任技術者が勤務していなければなりません。
「常勤」とは、原則として当該営業所で日常的に勤務しており、他の職務や他社の勤務と兼任していない状態を指します。

よくある誤解として、「本社にいる役員が兼務で営業所を管理している」という場合がありますが、
そのようなケースでは常勤性が否定され、営業所として認められない可能性があります。
社会保険加入、給与支払い、勤務時間などの実態資料が重要です。


2-2. 場所の要件(独立した事務所であること)

営業所は、独立性と継続性を持った事務所形態である必要があります。

次のような場合は、原則として営業所とは認められません。

  • 自宅の一部を間借りしており、事務スペースが独立していない
  • 他社との共同事務所で区画が明確に分かれていない
  • 月極駐車場やレンタルオフィス(短時間貸し)など、継続的使用が認められない場所
  • 郵便ポストや電話転送サービスのみ利用している「名義貸し営業所」

逆に、次のような場合は要件を満たすことが多いです。

  • 事務机、電話、パソコン、書類保管棚が設置されている
  • 建設業関係の書類(契約書・見積書・図面等)が常時保管されている
  • 実際に従業員や技術者が常駐している
  • 建設業許可票(標識)が掲示されている

特に「標識掲示」「看板」「固定電話」「来客対応スペース」は、営業所の実態を判断する重要要素です。


2-3. 設備・通信の要件

営業所には、最低限次の設備・通信手段が必要です。

  • パソコン・FAXなどの事務機器
  • 工事書類・契約書類を保管できる棚やロッカー
  • 建設業許可票(掲示義務)

これらの設備が整っていない場合、許可担当課は「営業実態なし」と判断することがあります。
特に最近では、レンタルオフィスやシェアオフィスを利用する企業が増えていますが、その場合でも「常時利用できる専用スペース」であることが必要です。


営業所要件の確認方法と証明書類

3-1. 許可審査時に提出が求められる資料

建設業許可申請において、営業所の実態を示すために、次のような資料を提出します。

  • 営業所の外観・内観写真(看板・机・電話などを明確に)
  • 賃貸借契約書(登記上の住所と営業所住所が異なる場合)

これらは「営業所の実態があるかどうか」を判断するための直接的な証拠となります。
特に、賃貸契約書に「目的:住居」と記載されている場合は、営業所として認められないケースが多いので注意が必要です。


3-2. 実地確認が行われる場合もある

一部自治体では、建設業許可の新規申請時に、職員が現地調査を行う場合があります。
この際、実際に机や書類があるか、従業員が勤務しているか、看板が設置されているかを確認されます。

「形だけ借りた住所」「バーチャルオフィス」「レンタルデスク」などは、現地調査で発覚し、不許可になることも少なくありません。


よくある誤解・トラブル事例

4-1. 「自宅兼事務所」は原則不可?

個人事業主などで「自宅を営業所にしたい」という相談も多くあります。
自宅兼事務所でも、建設業の契約や事務処理を行う専用スペースがあり、他の生活空間と区別されている場合は認められることもあります。

ただし、家族共有スペースで来客対応ができない、自宅住所に看板を出せないなどの場合は、実態なしと判断されるおそれがあります。
審査を通すには、事務机・書類棚・許可票掲示・写真などの整備が不可欠です。


4-2. 「バーチャルオフィス」では許可取得できない

建設業許可では、営業所の要件として「常時使用できる事務所」が必要です。
したがって、住所貸し・郵便転送のみのバーチャルオフィスは原則不適格です。

特に、建設業許可は信頼性・責任体制の確保を重視する制度であるため、「実態のない住所」での許可取得は厳しく制限されています。


4-3. 共有オフィス・コワーキングスペースの扱い

コワーキングスペースやシェアオフィスを利用する場合は、次の条件を満たせば認められるケースもあります。

  • 自社専用の固定席・スペースを契約している
  • 24時間または常時利用可能である
  • 書類保管棚・設備を独占的に使用できる
  • 建設業許可票を掲示できる

「共用スペースのみの利用」「時間貸し」「登記不可」などの場合は認められません。
契約書と現地写真の整合性を確保しておくことが大切です。


行政書士が支援できるポイント

営業所要件は、一見簡単に思えても、実務上はトラブルが多い項目です。
行政書士は、次のようなサポートを行うことができます。

  • 営業所要件を満たすかどうかの事前チェック
  • 現地写真や契約書の審査基準への適合確認
  • バーチャル・シェアオフィス等の可否判定
  • 必要書類の整備支援
  • 許可申請書への正確な営業所所在地の記載と添付書類作成

「自宅を営業所にできるか?」「支店でも申請できるか?」など、ケースによって判断が異なるため、申請前の相談が非常に重要です。


まとめ ― 営業所の実態が建設業許可の基盤になる

建設業許可の営業所要件は、単なる住所登録ではなく、
人・設備・書類・活動のすべてが実体をもって存在しているかを審査するものです。

形式的に登記をしていても、実態が伴わなければ許可は下りません。
逆に、しっかりと準備すれば、個人事業や中小企業でも問題なく要件を満たせます。

行政書士は、こうした実体証明の設計から資料準備までをサポートできます。
建設業許可を確実に取得・維持するために、営業所要件の整備を第一歩として取り組みましょう。