建設業許可を取得し、許可を維持するためには、各営業所に「専任技術者(営業所技術者等)」を配置することが義務づけられています。
この「専任技術者」の要件を満たさなければ、許可取得・許可更新・変更時に大きな障害となるため、しっかり理解しておきたいポイントです。

本稿では、専任技術者の法制度的背景、要件の具体内容、最近の緩和動向、証明書類・運用上の注意点、よくある質問などを、行政書士の視点も交えて解説します。


専任技術者の法的背景と役割

1-1. 法令上の根拠と位置づけ

建設業法およびその施行規則では、許可を受けようとする建設業に関し、営業所技術者等(営業所専任技術者)を置くことが許可要件とされています。

許可対象業種の建設工事に関する技術的な判断が営業所レベルでも行われ得るよう、見積・契約・履行等を適正に行う体制を整える目的があります。

この要件は、許可を取得するためだけでなく、許可を維持するためにも必要であり、許可後に専任技術者が不在となると、許可取り消しや業務停止のリスクもある点に注意が必要です。

1-2. 専任技術者の役割・機能

専任技術者は、各営業所において、請負契約の締結段階、技術的内容の検討、工法選定、発注者打合せ、見積支援、契約書調整など、技術的助言・管理を担います。

また、工事現場に配置される「配置技術者(監理技術者・主任技術者)」とは異なる役割をもち、営業所と現場をつなぐ技術的バックオフィスとしての地位を担います。

したがって、単なる現場担当者とは異なり、営業所を拠点に常勤できること(専任性)が前提条件となります。


専任技術者になるための要件(一般建設業)

専任技術者として認められるには、主に以下の要件を満たす必要があります(一般建設業の場合)。令和5年7月の改正も踏まえて整理します。

2-1. 要件の全体構造(資格または実務経験)

一般建設業の専任技術者要件は、大きく以下のような構成です。

パターン要件の概要
資格保有型許可を受ける建設業の業種に対応する国家資格を有していること
学歴+実務経験型指定学科を修了し、その後一定年数の実務経験を積んでいること
実務経験10年型指定学科や資格がなくても、対象業種に関して10年以上の実務経験を有していること

このうち、いずれかを満たせば専任技術者として認められます。

2-2. 資格保有型(国家資格を有する場合)

この方式がもっともシンプルとされるパターンです。たとえば、「建築工事一式」なら 1級建築施工管理技士・2級建築施工管理技士等が該当するケースがあります。

資格を保有していれば、実務経験や学歴をそれほど長く求められない、または証明が容易になるという扱いを受けることが一般的です。

ただし、資格だけでは必ず認められるわけではなく、その資格が許可対象業種に対応していること証明書類の整備が要されます。

2-3. 指定学科卒業+実務経験型

資格がない場合でも、所定の 指定学科を卒業していれば、実務経験年数を短縮して要件を満たせる制度が採られています。

たとえば、改正後は次のような要件例が示されています。

  • 指定学科の大学・短大卒業 → 卒業後 3年の実務経験
  • 指定学科の高校卒業 → 卒業後 5年の実務経験
  • あるいは、技術検定の合格者(一次検定等)を指定学科卒業と同等に扱うものとして、合格後 3年または 5年という扱いも導入されています。

このような「学歴特例型」は、若手技術者等が専任技術者要件を満たしやすくする改正の一環と位置づけられています。

2-4. 実務経験10年型(資格・学歴を問わない方式)

資格・指定学科がなくても、対象業種に関して 10年以上の技術的実務経験 を有していれば、専任技術者として認められることがあります。

この実務経験とは、建設工事施工技術に関わる指揮監督や施工実務に携わった経験であり、単なる事務作業・営業活動などは含まれません。

ただし、注意すべき点として、 10年経験として使える実務経験は一業種(建設業種)につき1回限り という運用ルールがあるケースあります。

また、電気工事業・消防施設工事業など、他法令上無資格施工が許されない分野では、この10年実務型による認定が制限される例もあります。


専任技術者要件(特定建設業の場合)

特定建設業許可(下請負金額が大規模となる請負を行う場合)を受けるには、より厳しい技術者要件が課されます。

3-1. 特定建設業の専任技術者要件

特定建設業における専任技術者は、一般建設業の要件を満たすだけでは足りず、追加的な要件が課されます。

具体的には、以下のいずれかを満たす必要があります。

  1. 対象業種に関する 国家資格を有している
  2. 一般建設業の専任技術者要件を満たした上で、 元請として 4,500万円以上の工事を請け負った経験があり、2年以上指導・監督的な実務経験を有する
  3. 国土交通大臣が個別認定する “特別認定者”

たとえば、一般建設業要件を満たしたうえで、大規模工事における技術指導管理を行った経験が認められることで特定建設業専任技術者とされるケースがあります。

ただし、許可を予定する建設業種が「指定建設業(7業種)」に該当する場合は、要件がさらに限定されることがあります。

3-2. 指導監督的実務経験の意義・内容

特定建設業用の“指導監督的実務経験とは、現場の主任技術者・監理技術者などとして、 技術上の統括指導・管理を行った経験 を意味します。

具体には、発注者・下請業者を含めた工程調整、安全管理、品質管理、技術的判断、技術指導などを行った実績が問われます。

このような経験を有していないと、単なる現場経験だけでは特定建設業の専任技術者要件を満たせないケースが多く、書類・実績整理が非常に重要となります。


要件以外で問われる「専任性」「常勤性」および除外規定

専任技術者要件は、資格・実務経験だけでなく、勤務形態・排除条件にも厳しい制約があります。

4-1. 専任性・常勤性(営業所への常勤義務)

専任技術者は、 その営業所(あるいは主たる事務所)に常勤していること が求められます。

具体的には、他社兼任や遠隔地居住、名義だけの担当、報酬実績が乏しい状態などは「専任性を満たさない」と判断されるリスクがあります。

ただし、令和3年12月以降、通信機器を利用して 遠隔地にいながら常時連絡可能な体制 を構築する場合、テレワークに近い勤務形態を専任要件として認める運用も一部で導入され始めています

なお、専任技術者が営業所外の工事現場に常駐すること自体は原則制限されます。営業所勤務が前提とされるため、営業所と現場を頻繁に行き来する運用は、兼務性・勤務実態を問われることがあります。

4-2. 除外規定・認められない事例

専任技術者要件に該当しない、または認定を否定される典型例として、以下のようなものがあります。

  • 住所が営業所から著しく遠く、通勤が困難と判断される者
  • 他社の営業所に専任技術者を兼任している者
  • 他の法令上の専任義務職(他の許可制度で専任義務があるポジション)との兼務
  • 他の法人の役員・代表者・常務役員・個人事業主などとして複数活動しており、実質的に常勤性が認められないと判断される場合
  • 報酬支払実績・給与証明・勤務記録などが整っていない者

これらを避けるためには、勤務実態を示す証拠資料を整備し、兼任予定者の場合は兼務の合理性を示す制度設計を行うことが大切です。


証明書類と実務的対策

専任技術者の要件を満たしていても、証明方法や書類の整備に不備があると、許可申請時または更新・変更時にトラブルが生じやすい分野です。

5-1. 実務経験の証明資料

実務経験を証明するには、以下のような書類が典型的に求められます:

  • 工事契約書/注文書/請負書・請求書など、業務実施を示す書類
  • 工事写真、工事仕様書、施工図、現場日報などの実務記録
  • 発注者の証明書や確認書
  • 技術者として工事を担当していたことを示す役割・担当範囲を記載した資料

特に、10年実務経験型を選ぶ場合には、長期にわたる工事実績を年度別に整理・証明できるようにしておくことが重要です。

また、指定学科卒業型と組み合わせる場合は、卒業証明書や成績証明書も必要となります。

5-2. 常勤性・専任性の証明資料

専任技術者の勤務実態を示す証拠も不可欠です。以下のような資料が一般的に要求されます:

  • 健康保険証、保険標準報酬通知書など、社会保険加入証明
  • 源泉徴収票・給与支払明細・賃金台帳
  • 出勤簿、タイムカード、業務日誌など勤務記録
  • 社内規程・就業規則、勤務体制を示す制度文書
  • 役員・従業員としての登記簿・名簿など
  • 通勤距離・勤務時間などを合理化した説明書類

これらを年次ごと・担当業務ごとに整理しておくことが、証拠として強みになります。

5-3. 改正対応:令和5年7月以降の緩和措置

令和5年7月1日から、専任技術者要件の一部緩和が行われました。主な改正点は以下の通りです。

  • 技術検定試験(第一次検定)の合格者を、指定学科卒業と同等に扱う取り扱いを導入
    • 1級一次検定合格者 → 卒業後 3年とみなす
    • 2級一次検定合格者 → 卒業後 5年とみなす
  • これにより、指定学科以外出身者でも、一定条件下で要件を満たしやすくなる道が開かれました
  • ただし、この改正は 一般建設業 に限定されており、特定建設業には適用されない点に留意が必要です。

このような緩和措置を活用できるかは、個別の経歴・業種構成に依存するため、改正内容を正確に把握したうえで資料設計を行うことが肝要です。


よくある質問・注意点

ここでは、専任技術者要件に関して、実務上よく問われる疑問点・注意点をQ&A形式で整理します。

Q1. 資格がないけど、指定学科卒もしていない場合はどうする?

このような場合は、10年実務経験型での要件充足が一般的な選択肢となります。ただし、電気工事・消防施設工事など一部業種では無資格実務型を認めない運用もあるので要注意です。

また、過去の工事実績を年度別に適切に整理して証明できるかどうかが、認定可否の大きな鍵となります。

Q2. 複数営業所や複数業種での兼任はできるか?

原則として、各営業所ごとに専任技術者を置く必要があります。1人が複数営業所を担当する兼任は、専任性が否定されることがあります。

ただし、例外的に、同一営業所内で複数業種(建設業種)を扱う際に、兼任できるケースもあります(ただし条件付き)。

Q3. 専任技術者が退職・異動したらどうすればいいか?

専任技術者が退職・異動等で営業所を離れると、許可要件を満たさなくなるため、 速やかに新たな専任技術者を配置し、変更届を提出 する必要があります。

特に更新申請直前や許可有効期間中に発生するとリスクが高まります。許可維持とリスク回避の観点から、後継者の育成・予備人員確保が望まれます。

Q4. 現場担当技術者(配置技術者)との違いは?

「配置技術者(主任技術者・監理技術者)」は、各工事現場に配置される技術管理者であり、具体的な施工管理、安全管理、工程管理を担います。

一方、専任技術者は営業所ベースで技術支援・契約支援・見積調整等を行う立場であり、 配置技術者とは役割も勤務地も異なる 点に注意が必要です

したがって、専任技術者がそのまま複数現場の主任技術者を兼ねることは、兼務性・常勤性の観点から認められないことが多いです。


行政書士の支援領域と実務活用ポイント

専任技術者要件は、制度の変更や運用態度の差異が大きく、適切な設計と証明整理が鍵を握ります。行政書士が支援できる主な領域は次の通りです。

7-1. 要件適合性の事前診断

  • 技術者候補者の学歴・資格・実務歴等を聞き取り、どの方式(資格型、学歴型、10年型)が最も適合しやすいかを判断
  • 改正規定(令和5年7月以降の緩和措置)を適用可能かどうかの見通し判断

7-2. 証拠資料設計と書類作成支援

  • 実務経験を示す契約書・工事実績書・写真等の整理方法指導
  • 勤務実態資料(給与台帳・出勤簿・保険証・就業規則等)の整備支援
  • 各種証明書(卒業証明書、資格証明書、検定合格証等)取得支援・書式整備

7-3. 提出・代行申請支援

  • 専任技術者に関する記載書式の作成(営業所技術者一覧表など)
  • 申請先庁担当課との照会・折衝
  • 変更届・更新申請時の技術者異動対応支援

7-4. 予備体制設計・リスク管理

  • 複数技術者候補(後継者)を見据えた体制設計
  • 技術者異動・退職リスクを前提とした変更対応方針の策定
  • 日常的な証拠資料更新支援(定期点検)

まとめ — 専任技術者要件を確実に満たすためには準備と設計が不可欠

専任技術者の要件は、資格・学歴・実務経験に加えて、専任性・証明書類・運用適正性という多面的な要素を伴います。

特に、令和5年7月以降の改正を踏まえ、技術検定合格者を指定学科卒とみなす扱いが導入されたことは、若手技術者への門戸を広げる動きとして注目されます。

ただし、改正規定を適用できるかどうかは個別事情に左右されるため、実務経験や学歴、検定合格日・実務履歴を正確に整理する必要があります。

専任技術者要件を確実にクリアするためには、早めの準備、証拠資料の整備、対応戦略の設計が肝要です。行政書士は、要件判定・資料設計・申請代行・変更対応等を包括的に支援できるため、許可取得・維持の強い味方となります。