建設業許可業者にとって、毎年の義務である「決算変更届(決算報告)」の提出、および公共工事入札に向けた「経営事項審査(経審)」において、実務上の最重要書類となるのが「工事経歴書(様式第2号)」です。

本稿では、工事経歴書の作成ルールと、記載内容が許可維持や経審評点に与える影響について、専門的な観点から詳説します。


1. 工事経歴書とは

工事経歴書は、建設業法第11条第2項に基づき、事業年度ごとに作成が義務付けられている法定書類です。当該年度における施工実績を、許可を受けている(または申請する)業種ごとに分類して記載します。

単なる実績のリストではなく、財務諸表上の売上高との整合性、専任技術者の配置基準の遵守状況、さらには経審における施工能力の評価(完成工事高)を担保するための、極めて証拠能力の高い「施工証明書」としての性質を持ちます。

2. 工事経歴書が必要な場面

実務上、工事経歴書の提出・作成が求められるのは主に以下の3つの局面です。

場面目的と役割
決算変更届毎事業年度終了後4か月以内に提出。許可更新の絶対条件となる。
新規・業種追加申請各年度の工事施工実績の客観的証拠。
経営事項審査(経審)公共工事入札に向けた評点(完成工事高:X1)の算出根拠。

3. 工事経歴書の主な記載事項

東京都の様式第2号に基づき、以下の項目を正確に記載しなければなりません。

  • 注文者: 発注者名。下請の場合は元請会社名。
  • 工事名: 契約書、注文書上の正式名称(「〇〇邸」等、個人名は伏せる必要あり)。
  • 配置技術者: 主任技術者または監理技術者の氏名。
  • 請負代金: 税込または税抜。原則として財務諸表の処理方式と一致させる。
  • うち元請分: 元請として受注した金額のみを別途内書きする。

4. 工事経歴書の書き方

記載する工事の抽出ルールは、経営事項審査(経審)の受審有無によって大きく異なります。

① 経審を受けない場合(一般・特定)

経審を受けない(民間工事のみの)場合、厳密な抽出比率(7割ルール)は適用されませんが、実務上は以下の順序で記載します。

  1. 主な工事の抜粋: 当該業種の完成工事の中から、請負金額の大きい順に10~20件程度を抽出。
  2. その他の工事の合算: 抜粋しなかった軽微な工事は、最下段に「その他」として件数と合計金額を一括記載。
  3. 未成工事の記載: 期末時点で未完成の工事を金額順に記載。

② 経審を受ける場合(7割ルールの適用)

経審を受審する場合、施工能力を網羅的に評価するため、以下の「7割ルール」に従った抽出が義務付けられています。

ステップ抽出の基準(経審ありの場合)
1. 元請工事当該業種の「元請完成工事高」の合計に対し、請負金額の大きい順に7割(70%)に達するまで記載。
2. 全工事上記1に加えて、元請・下請を問わず「全完成工事高」の合計に対し、さらに合計額の7割に達するまで金額順に追記。

5. 工事経歴書を作成する際の専門的注意点

実務において審査官が重点的に確認する、不整合の発生しやすいポイントは以下の通りです。

財務諸表(損益計算書・貸借対照表)との数理整合性

工事経歴書の合計金額(その他を含む)は、財務諸表の数値と1円単位で一致しなければなりません。

  • 完成工事高: 経歴書の総計 = 損益計算書の「完成工事高(業種別売上)」
  • 未成工事: 経歴書の未成工事総計 = 貸借対照表の「未成工事受入金(または支出金)」

消費税の処理の統一

  • 免税事業者: 税込記載
  • 課税事業者(経審なし): 税込または税抜のいずれか(財務諸表と統一)
  • 経審受審時: 「税抜」記載が絶対条件

専任技術者の「常勤性」との矛盾

工事経歴書に記載された現場の「主任技術者」が、自社の専任技術者(営業所に常駐義務がある者)である場合、現場の工期や場所が専任技術者の職務と両立できるか厳格にチェックされます。特に「公共工事」や「一定金額以上の工事」で現場に張り付きとなるような記載は、許可要件である常勤性を否定する証拠となり、行政処分の対象となるリスクがあります。

業種の振り分けと「一式工事」の判定

単一の専門工事(例:塗装のみ)を「建築一式」として計上することは認められません。また、複数の専門工事を含む改修工事であっても、原則として請負金額の大きい業種、または許可を受けている業種へ適切に振り分ける必要があります。この判定を誤ると、経審の評点が正しく算出されないだけでなく、無許可営業を疑われる原因となります。


工事経歴書は、建設業者の1年間の経営実態を映し出す鏡です。当事務所では、財務諸表との突合から経審を見据えた戦略的な抽出まで、実務に基づいた精緻な作成代行を行っております。