【「新規性」の明示】— 審査官が納得するための書き方とポイント
■ 定義と位置づけ
「新規性」とは、補助金の審査項目において極めて重要な評価軸です。新事業進出補助金では、既存の自社事業とは異なる製品・サービス・技術・市場への進出であることが明確に示されなければ、形式要件を満たしていても審査通過は困難です。
この新規性は、以下のいずれかを満たす必要があります(中小企業庁「新事業進出指針」より):
- 製品・サービスの種類が異なる(例:飲食業から加工食品製造へ)
- 提供先市場が異なる(例:BtoCからBtoB)
- 技術・製造プロセスが異なる(例:手作業から自動化・AI導入)
- ビジネスモデルが異なる(例:対面販売からD2C EC展開)
■ 書き方の具体的ポイント
① 既存事業との対比構造をとる
単に「新しいことを始めます」と述べるのでは不十分です。既存事業と新事業の構造的な違いを明確に対比させることで、新規性が論理的に伝わります。
- 【NG例】
当社はこれまで飲食業を営んできましたが、今後は冷凍食品の販売を開始します。 - 【OK例】
既存事業である飲食業(レストラン運営)は、地域内消費を前提としたBtoCモデルであり、提供価値は「店内飲食体験」に限定されていました。新事業では、同社の人気メニューを急速冷凍し、全国顧客に向けたD2C販売モデルを構築するもので、事業構造・提供価値・市場対象が全く異なります。
② 競合との違いを明示する(=相対的な新規性)
「当社として新しい」だけでなく、**地域内・業界内でも独自性があること(差別化)**を補強できると、より評価が高まります。
- 地域初の取り組みである
- 同業他社にない設備や手法を導入している
- 特許技術や独自ノウハウがある
③ 新規性を支える「技術的裏付け・外部連携」を示す
完全に新しい分野に参入する場合、専門知識・技術・人材の裏付けを問われます。
- 提携予定の外部事業者との協力体制
- 大学・研究機関との共同開発
- 既に試作・実証を一部実施済み(PoC)
■ 図表例の活用(差別化を可視化)
項目 | 既存事業 | 新事業 |
---|---|---|
業種分類 | 飲食業(BtoC) | 食品製造業(D2C) |
製品・サービス | 店内飲食 | 冷凍惣菜の全国販売 |
顧客層 | 地元の来店客 | EC利用の全国消費者 |
技術基盤 | 手作業・店舗提供 | 急速冷凍・パッケージ開発 |
市場参入状況 | 地元競合多 | 地域では未展開 |
■ NG記述にありがちな誤り
- 「当社にとって初めて」=審査上の新規性にはならない
- 同じ製品を異なる手法で売るだけ(=販路拡大)も原則NG
- 既に導入済の内容を「新規」として書くとマイナス評価
■ 審査上の評価視点
中小企業庁・中企庁委託先が公表している審査基準(公募要領)では、以下の視点で「新規性」が評価されます:
- 対象事業が本当に既存事業と別のものであるか?
- 市場・顧客・技術の面で新たな付加価値を生んでいるか?
- 客観的にその差異が理解できる構成になっているか?
採択事例に学ぶ「新規性」の記述方法
事例1:自動車部品製造業 → 半導体装置部品製造への進出
- 既存事業:自動車向け金属部品の製造
- 新規事業:半導体製造装置用精密部品の製造
- 新規性のポイント:
- 製品等の新規性要件:過去に製造実績のない半導体装置部品への初挑戦であり、既存の自動車部品とは製品の仕様や品質要求が大きく異なる。
- 市場の新規性要件:顧客層が自動車業界から半導体業界へと大きく変化し、取引先や販売チャネルも新たに開拓する必要がある。
- 新事業売上高要件:新事業による売上高が、申請時の総売上高の10%以上を見込んでいる。補助金の
この事例では、製品と市場の両面での新規性を明確に示し、かつ売上高の目標も具体的に設定することで、審査員に対して新事業の意義と実現可能性を強くアピールしています。
事例2:建設業 → 木製家具製造業への進出
- 既存事業:注文住宅の建設
- 新規事業:オーダーメイドの木製家具の製造・販売
- 新規性のポイント:
- 製品等の新規性要件:これまで手掛けていなかった家具製造に初めて取り組むものであり、製品の種類や製造工程が住宅建設とは異なる。
- 市場の新規性要件:顧客層が住宅購入者から家具購入者へと変化し、販売チャネルも異なる。
- 新事業売上高要件:新事業による売上高が、申請時の総売上高の10%以上を見込んでいる。
この事例では、既存の建設業で培った木材加工技術を活かしつつ、新たな製品と市場に挑戦する姿勢が評価されました。
「新規性」の記述における注意点
- 過去の製品の再製造は対象外:過去に製造・販売した製品を再度製造する場合は、「製品等の新規性要件」を満たしません。
- 製造方法の変更のみでは不十分:製品自体が変わらず、製造方法のみを変更する場合は、新規性が認められない可能性があります。
- 市場の拡大のみでは不十分:既存の製品を新たな地域で販売するだけでは、「市場の新規性要件」を満たさない場合があります。
まとめ
新事業進出補助金の申請において、「新規性」の明確な記述は採択の可否を左右する重要な要素です。製品やサービスの内容、対象とする市場、売上高の見込みなどを具体的に示し、審査員に対して新事業の意義と実現可能性を伝えることが求められます。事業計画書の作成にあたっては、公募要領や「新事業進出指針の手引き」などの公的資料を参照し、要件を正確に理解した上で、論理的かつ具体的な記述を心がけましょう。