経営環境が急変した際、たとえば自然災害、パンデミック、急激な売上減少、仕入先の倒産などにより、資金繰りが急速に悪化することがあります。特に自己資本比率の低い小規模事業者は、手元流動性が乏しく、資金ショートに直結しやすい傾向があります。こうした非常時に活用すべきなのが、公的な緊急融資制度です。ここでは主な制度とその具体的な使い方について解説します。


1. 制度融資とは何か

制度融資とは、都道府県や市区町村と金融機関、信用保証協会が連携して運営する公的融資制度です。中小企業者が信用保証付きで低利融資を受けられる仕組みで、地方自治体が利子補給や保証料補助を行うことで、資金調達のコストを大幅に抑えることが可能です。

たとえば東京都の「経営安定資金」や「小口資金融資」などは、売上の減少や資金繰り悪化といった具体的な要件を満たせば、無担保・保証人なしで融資を受けられるケースもあります。借入限度額は3000万円程度、利率は1%未満に抑えられることが多く、融資期間は5〜7年が一般的です。

申請手続きとしては、まず地元自治体に申請し、信用保証協会の審査を経て、取扱金融機関で正式な借入契約を行います。制度によっては「中小企業診断士等による経営計画の作成」や「市町村長の認定」が必要なこともありますので、書類作成は慎重を要します。


2. セーフティネット保証制度の活用

信用保証協会によるセーフティネット保証は、経営が一時的に悪化した事業者を対象とする特別保証制度で、特に「4号」「5号」および「危機関連保証」が緊急時の代表的な制度です。

  • 4号保証(突発的災害型)
    自然災害や感染症などによる影響で売上高が前年同期比20%以上減少した場合に適用。信用保証協会が100%保証を行うため、金融機関も貸し倒れリスクがなく、借入がしやすくなります。
  • 5号保証(業況悪化業種型)
    国が指定する業種で、直近3ヶ月間の売上高が5%以上減少している場合に適用。保証割合は80%で、比較的幅広い業種が対象となります。
  • 危機関連保証
    世界的・全国的な危機が発生した場合に一時的に発動される制度。保証枠とは別枠で2.8億円の保証が可能です。

これらの保証制度を利用するには、まず本店所在地の市区町村から「認定書」を取得し、それを添えて信用保証協会および金融機関に融資申込を行います。


3. 日本政策金融公庫の特別貸付

公庫(日本政策金融公庫)は、中小企業や個人事業主向けに、危機時に迅速な資金供給を行う役割を担っており、特別貸付制度はその中心的施策です。

代表的なのが「新型コロナウイルス感染症特別貸付」ですが、平時においても「セーフティネット貸付」や「経営環境変化対応資金」といった制度が存在し、売上減少や災害などにより資金繰りが厳しくなった事業者が対象です。

  • 融資限度額:最大8000万円(別枠)
  • 返済期間:運転資金は7年以内、設備資金は20年以内
  • 利率:条件によっては当初3年無利子(実質無利子)も可能

公庫は財務諸表や資金繰り表を精査し、返済可能性を重視するため、明確な資金使途と返済計画が求められます。申請にあたっては、月次売上推移、販管費、借入金一覧等の添付が必須となるため、行政書士や会計専門職の支援が効果的です。


4. 借換・リスケ・信用保証付き借換制度

既存債務の返済が困難になった場合、単に新規融資を受けるのではなく、**借換(リファイナンス)**を行うことで資金繰りの安定化を図ることができます。

とくに、コロナ融資の元本返済が開始される令和6〜7年度にかけては、「借換保証制度(コロナ借換保証)」が利用価値の高い制度となります。これは、コロナ融資の借入残高を一本化し、返済スケジュールを再設計する仕組みで、信用保証協会が再度保証を付けることが可能です。

  • 必須条件として、「経営行動計画書」の策定と、取引金融機関による伴走支援が求められます。
  • 保証限度額は1億円で、保証料率は原則0.2%と非常に低く設定されています。
  • 据置期間5年以内、返済期間10年以内と、負担軽減の柔軟性が高い制度です。

5. 緊急融資制度活用における留意点

緊急融資制度はあくまでも「返済可能性を前提とした支援策」です。したがって、以下の点に留意する必要があります。

  • 融資申請時に重視されるのは、返済計画の現実性と事業の継続可能性です。資金使途、売上見通し、コスト削減策などを明確にした事業計画書が必要です。
  • 信用保証付き融資では、代表者個人の信用情報も審査対象となります。過去の延滞や税金滞納があれば、審査通過は困難になります。
  • 借入過多の事業者は、借換ではなく再建支援や私的整理の検討も必要です。行政書士としては、事業再構築補助金等との併用も含めた総合的な支援が求められます。

まとめ

緊急時に利用できる融資制度は多岐にわたりますが、それぞれの制度には要件・書式・手順が異なり、迅速かつ的確な申請が求められます。資金ショートは、往々にして「早期対応の遅れ」により深刻化します。

行政書士としては、事業者の財務状態と制度の適合性を迅速に判断し、必要な書類作成から金融機関・自治体との折衝までを一括サポートすることで、資金繰り悪化という緊急事態に対して実効性のある支援が可能です。