補助金の「採択通知」を受け取った事業者が、次に直面するのは膨大かつ厳格な事務手続きです。

多くの経営者が誤解していますが、採択通知は「補助金を受け取る権利の確定」ではありません。あくまで「候補者として選定された」という通知に過ぎません。この後の手続きにおいて、事務局が求める要件を満たせなければ、採択は取り消され、補助金は1円も支給されません。

本記事では、東京都国立市・府中市・立川市エリアで数多くの事業者様を支援しているおくだいら行政書士事務所が、採択後から入金、そして5年間の事後義務に至るまでの実務フローと、絶対に踏んではならない「事務処理上の禁じ手」について、実務的な観点から解説します。


1. 全体像の把握:採択から入金までのフロー

まずは、行政手続き上の全体像を正確に把握してください。補助金実務は、以下の4フェーズで進行します。

  1. 交付申請(こうふしんせい):見積書等を提出し、正式な契約(交付決定)を求める。
  2. 補助事業の実施:発注・納品・支払を行う。
  3. 実績報告(じっせきほうこく):証憑書類を揃え、検査を受ける。
  4. 請求・入金:確定通知受領後、請求書を送り入金される。

最も重要な原則は、「交付決定通知書」が届く前に、発注行為(契約・注文)を行ってはならないという点です。 ※事前着手が認められている例外的なケースを除き、交付決定前の発注は、いかなる理由があろうとも補助対象外となります。


2. フェーズ1:交付申請における実務ポイント

採択された事業計画書に基づき、具体的な経費の精査を行う段階です。

相見積書の有効性確認

多くの補助金(ものづくり補助金や事業再構築補助金など)では、原則として「2者以上の相見積もり」が必須です。ここで審査されるのは以下の点です。

  • 仕様の一致:A社とB社の見積もり内容は、同一の仕様に基づいているか。
  • 有効期限:交付申請時点で、見積書の有効期限が切れていないか。
  • 選定理由の合理性:安価な業者を選定するのが原則です。もし高額な業者を選定する場合(技術的な優位性など)は、客観的かつ合理的な「選定理由書」が必要です。

経費の再配分(流用)の制限

採択時の計画から、経費配分が変わる場合(例:機械装置費を減らし、システム構築費を増やす等)は注意が必要です。各補助金の公募要領により、費目間の流用には制限(20%ルールなど)が設けられている場合があります。


3. フェーズ2:事業実施(発注・納品・支払)の鉄則

交付決定が下りた後、実際に事業を開始します。ここでの事務処理ミスが、後の「不支給」の主原因となります。以下のルールを徹底してください。

支払い方法は「銀行振込」が一択

補助金の経費支払いは、原則として「銀行振込」で行います。以下の決済方法は、証拠能力の観点から認められないケースが大半です。

  • 現金払い:資金の流れが客観的に証明できないため不可。
  • 手形・小切手:決済完了日が不明確なため不可。
  • 相殺(そうさい):売掛金との相殺などは、現金の移動がないため不可。
  • クレジットカード:引き落とし日が事業実施期間外になるリスクがあるため、原則避けるべき(どうしても使用する場合は、期間内の引き落とし完了が必須)。

帳票類の「日付の整合性」

行政の検査において、最も厳しくチェックされるのが「日付」です。以下の時系列が守られていなければなりません。

【正しい時系列】 交付決定日見積日発注日納品日(検収日)請求日支払日

例えば、「見積日」が「発注日」より後になっていたり、「納品日」より前に「支払日(前払い)」があったりする場合は、合理的な説明がつかない限り否認されるリスクがあります。

写真撮影の義務

導入した設備や改修した箇所は、必ず証拠写真を撮影します。

  • 設置前の状況
  • 設置後の状況(全体)
  • 型番・シリアルナンバーのアップ これらの写真がない場合、「実在確認ができない」として経費否認されます。

4. フェーズ3:計画変更が必要なケース

ビジネス環境の変化により、当初の計画通りに事業が進まないことは往々にしてあります。その際、勝手な判断で仕様を変更することは許されません。

以下のようなケースでは、事前に事務局へ「計画変更承認申請」を行い、承認を得る必要があります。

  • 導入設備の変更:メーカーや機種が変わる場合。
  • 実施場所の変更:設備の設置場所が変わる場合。
  • 事業期間の延長:半導体不足等で納期が遅れ、期限内に完了しない場合(※正当な理由がある場合に限る)。

「事後報告」は認められません。 無断で変更した部分は、全額補助対象外となります。


5. フェーズ4:実績報告と確定検査

事業完了後、期限内(通常は完了から30日以内、または最終期限の早い方)に実績報告書を提出します。

証憑書類(バウチャー)の完全セット化

1つの経費につき、以下の書類を1セットとして整理します。

  1. 見積依頼書(仕様書)
  2. 見積書(相見積もり含む)
  3. 発注書(注文書)
  4. 発注請書(注文請書)
  5. 納品書
  6. 検収書(検査報告書)
  7. 請求書
  8. 振込金受取書(または振込明細書+通帳コピー)

これらが全ての経費分、整合性が取れた状態で揃っていなければなりません。事務局からの不備指摘(修正指示)は数回〜十数回に及ぶこともあり、この対応に数ヶ月を要する事業者も少なくありません。


6. 入金後の義務:5年間の財産処分制限と収益納付

補助金が入金された後も、行政による監視・管理は続きます。

財産処分制限期間(5年間)

補助金で購入した設備(単価50万円以上など)は、適正化法により管理が義務付けられます。 法定耐用年数または5年の間は、事務局の承認なく「転売」「譲渡」「交換」「貸付」「廃棄」「担保提供」を行うことができません。 これに違反した場合、補助金の返還を求められます。

収益納付(しゅうえきのうふ)

「補助金を使って整備した設備のおかげで、直接的に利益が出た」と認められる場合、その利益の一部を国に返納しなければならない制度です。 ※多くの補助金では、赤字の場合や、利益との因果関係が明確でない場合は免除されますが、毎年の「事業化状況報告」において正確な報告が求められます。


7. まとめ:事務負担のリスクをどう管理するか

補助金の実務は、採択までの「攻め(事業計画策定)」と、採択後の「守り(コンプライアンス遵守)」の両輪で成り立っています。 特に採択後の手続きは、行政文書特有の厳密さが求められ、本業を持つ経営者様にとって非常に重い負担となります。

専門家活用の推奨

おくだいら行政書士事務所では、事業計画書の作成支援(採択サポート)だけでなく、採択後の「交付申請」から「実績報告」、「年次報告」に至るまでの実務を一貫してサポートしております。

行政側の論理と実務フローを熟知した当事務所が管理することで、以下のメリットを提供します。

  1. 手続きミスの防止:失効や減額リスクの極小化。
  2. 本業への集中:膨大な事務連絡や書類作成からの解放。
  3. 迅速な入金化:不備による審査長期化を防ぎ、キャッシュフローを安定させる。

「採択されたが、手続きの手引きを見て途方に暮れている」 「担当者が退職してしまい、報告業務が停滞している」

このような状況にある事業者様は、リスクが顕在化する前に、ぜひ一度ご相談ください。東京都国立市・府中市・立川市エリアを中心に、迅速に対応いたします。