建設業許可の取得を目指す際、多くの方が直面する大きな壁の一つが「500万円の資金」です。元請けから「許可を取ってほしい」と言われたり、500万円以上の工事を受注するチャンスが目の前にあったりするのに、「今すぐ500万円の残高証明なんて用意できない…」と頭を抱えて許可申請自体を諦めてしまう事業者様が少なくありません。
しかし、諦めるのはまだ早いです。
実は、建設業許可(一般)の「財産的基礎」要件をクリアする方法は、銀行で残高証明書を取得する以外にも存在することをご存知でしょうか。
この記事では、建設業許可専門の行政書士が、「500万円の残高証明書」が用意できない場合でも財産的基礎要件をクリアするための「別の方法」について、具体的な確認ポイントと対策を徹底的に解説します。
「うちはもうダメかもしれない」と思う前に、ぜひこの記事を最後までお読みください。あなたの会社が要件をクリアできる可能性が、まだ残されているかもしれません。
そもそも建設業許可の「財産的基礎」要件とは?
建設業許可の申請において、なぜ「お金」に関する要件が求められるのでしょうか。それは、建設業が「仕事の先行投資(材料費、人件費など)が大きい」「工期が長く、入金サイクルが遅い」といった特徴を持つビジネスだからです。
許可行政庁(東京都など)は、「許可を与えた事業者が、資金繰りの問題ですぐに倒産したり、下請業者や資材屋への支払いを滞らせたりしないか」を厳しくチェックしています。つまり、「安定した経営を維持できる財産的な裏付けがあるか」を証明するのが、この「財産的基礎」要件なのです。
「一般」と「特定」で要件は全く異なる
まず大前提として、財産的基礎の要件は「一般建設業」と「特定建設業」で天と地ほどの差があります。この記事で主に取り上げる「500万円」の要件は、「一般建設業許可」のものです。
ちなみに「特定建設業許可」(元請けとして受注した工事のうち、合計4,500万円以上を下請けに出す場合などに必要)では、比べ物にならないほど厳しい要件(例:自己資本4,000万円以上、資本金2,000万円以上など)が課されます。
まずはご自身が取得しようとしているのが「一般」であることを確認しましょう。
【方法1】残高証明が不要なケース:直前決算の「自己資本」でクリアする
「500万円の残高証明書」が必要になるのは、あくまで「これから説明する方法が使えない場合」です。行政書士が許可申請の相談を受けた際、真っ先に確認するのがこちらの方法です。
それは、「直近の決算書(貸借対照表)において、自己資本の額が500万円以上あること」で要件をクリアする方法です。
この方法が使えるなら、銀行の窓口に並んで残高証明書を取得したり、一時的に500万円の現金を集めたりする必要は一切ありません。
「自己資本」とは?今すぐ貸借対照表(B/S)を確認!
「自己資本」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、確認する場所は非常にシンプルです。
お手元に、一番新しい事業年度の「貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)」(B/S=バランスシートとも言います)をご用意ください。
- 法人の場合:貸借対照表の「純資産の部」にある「純資産合計」の額を見てください。
- 個人の場合:貸借対照表の「期末自己資本(または純資産合計)」の額を見てください。
この金額が「500万円(5,000,000円)」以上であれば、おめでとうございます。あなたは「財産的基礎」要件をクリアしています。銀行の残高証明書は不要です。
毎年、赤字を出さずにしっかりと利益を積み重ね、「繰越利益剰余金」がプラスになっている健全な会社様は、この方法であっさり要件をクリアできることが多いのです。
この方法のメリットと注意点
メリット:
言うまでもなく、手元の現金を動かす必要がないことが最大のメリットです。健全な経営をしてきた証として、書類(決算書)だけで審査を通過できます。
注意点:
この方法は、あくまで「直近の確定した決算書」に基づきます。例えば、3月決算の会社が5月に申請する場合、3月期の決算が確定し、税務申告が完了している必要があります。まだ決算が締まっていない場合は、その一つ前の期(前期)の決算書で見られることになります。
【方法2】「残高証明書」でクリアするしかない場合
残念ながら、前述の【方法1】が使えないケースもあります。
- 直近決算の「純資産合計」が500万円未満だった(例:赤字が続いて繰越利益剰余金がマイナス)
- 会社を設立したばかりで、まだ一度も決算期を迎えていない(=比較すべき決算書が存在しない)
このような場合に、初めて「500万円以上の資金調達能力」を証明する方法として、「預金残高証明書」の出番となります。
残高証明書の「落とし穴」とは?
「よし、じゃあ500万円かき集めて残高証明を取ろう」と考えた場合、いくつか注意すべき「落とし穴」があります。
1. 「見せ金」は絶対NG!
最もやってはいけないのが「見せ金」です。知人や金融機関から一時的に500万円を借り入れ、残高証明を取得した直後に返済する…という行為は、虚偽申請にあたる可能性があり、絶対にNGです。
審査の過程で、行政庁から「その500万円の出所はどこか?」と通帳のコピー提出などを求められるケース(特に関東地方整備局など)もあります。不正が発覚すれば、許可が取り消されるだけでなく、今後の申請にも重大な支障をきたします。
2. 「いつの時点」の証明書でも良いわけではない
残高証明書は、「いつでも良い」わけではありません。行政庁によってルールが異なりますが、一般的には「申請日の直前1ヶ月以内」など、有効期限が定められています。
例えば、「1ヶ月前に500万円あった」という証明書では古すぎて受け付けてもらえません。他の書類を準備している間に期限が切れてしまった、ということがないよう、取得のタイミングは非常に重要です。
自己資本も残高も足りない…それでも諦めないための「裏ワザ」
「決算書を見たら自己資本はマイナスだった…」
「どうしても500万円の現金を用意できそうにない…」
ここからが、専門家である行政書士の腕の見せ所です。すぐに諦めるのではなく、以下のような「合法的な」対策が取れないか検討します。
1. 決算書(B/S)を「改善」する
実は、決算書の内容を合法的に改善し、自己資本を500万円以上に引き上げることができる場合があります。
(A)増資(資本金を増やす)
最もクリーンな方法です。株主(社長自身である場合が多い)が会社に追加で出資し、資本金を増やします。例えば、自己資本が300万円だった場合、200万円増資して資本の部に入れることで、自己資本は500万円になります。ただし、法務局での登記手続きが必要で、登録免許税などのコストもかかります。
(B)役員借入金を「資本」に振り替える(デット・エクイティ・スワップ)
多くの中小企業では、社長が会社にお金を貸し付けている(=役員借入金)ケースがあります。これは貸借対照表では「負債」として計上されています。
この「役員借入金」を「資本金」に振り替える(現物出資する)手続きを行うことで、「負債」が減り「資本」が増えるため、自己資本が一気に改善します。税務上の論点も含むため、顧問税理士と行政書士の連携が必須となる高度なテクニックです。
2. 「決算期」を戦略的に変更する・待つ
「あと数ヶ月で決算期だ」という場合、今期はしっかりと利益を出し、決算書上の自己資本が500万円を超えるように経営努力をする、という戦略的な判断もあります。
また、事業年度の途中で増資や(B)の対策を行った場合、その効果が反映されるのは次の決算書からです。しかし、どうしても急ぐ場合は「臨時決算」を組んだり、「決算期を変更」したりして、改善後の財務諸表を早期に確定させるという方法も取りうる場合があります。(ただし、これは行政庁との調整が必要な上級テクニックです)
まとめ:500万円の要件は「見せ方」が重要。専門家にご相談を
「財産的基礎」の500万円要件は、建設業許可申請における大きなハードルですが、ご覧いただいた通り、クリアする方法は一つではありません。
- まず、直近の決算書(B/S)の「純資産合計」を確認する(最優先)
- ダメなら、500万円の「預金残高証明書」を準備する
- どちらも難しい場合、「増資」や「役員借入金の資本振替」などで決算書自体を改善できないか検討する
「500万円ないから無理だ」と自己判断で諦めてしまうのは、非常にもったいないことです。特に「決算書を改善する」という方法は、税務や法務の知識が必要であり、事業者様ご自身ではなかなか気づきにくいポイントです。
建設業許可の取得は、今後の御社の事業拡大、信用力アップ、そして大きなチャンスを掴むための第一歩です。その第一歩を「お金の要件」だけで諦めてほしくありません。
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