「新規事業を立ち上げて、会社の柱をもう一本作りたい」 「そのための資金として、補助金を活用したい」
そう考える経営者様にとって、「中小企業新事業進出促進補助金(以下、新事業進出補助金)」は非常に魅力的な選択肢です。従業員規模によっては最大で9,000万円(賃上げ特例適用時)という大型の支援が受けられるため、設備投資の大きな助けとなります。
しかし、この補助金には大きな落とし穴があります。それは、国が定義する「新事業進出」のハードルが、皆さんが想像する以上に高いということです。
「今までやっていなかった商品を売る」「新しい店を出す」。一般的な感覚ではこれらは「新規事業」ですが、本補助金の審査においては、それだけでは「要件不備(不採択)」として門前払いされる可能性があります。
本記事では、府中市、立川市、八王子市エリアで数多くの中小企業支援を行うおくだいら行政書士事務所が、審査の土俵に乗るために絶対にクリアしなければならない「3つの必須要件」について、実務的な視点で徹底解説します。
申請ボタンを押す前に、御社の計画がこの「3つの壁」を越えているか、必ずセルフチェックを行ってください。
1. 最大の壁「新事業進出」の定義とは?
まず大前提として、本補助金における「新事業進出」とは、以下の3つの要件をすべて満たす事業計画のことを指します。
- 製品等の新規性要件:自社にとって新しい製品・サービスであること。
- 市場の新規性要件:既存事業とは異なる「新しい市場(顧客層)」を狙うこと。
- 新事業売上高要件:事業終了後、会社の総売上の10%以上を占める規模になること。
どれか一つでも欠ければ、それは本補助金の対象外です。特に多くの事業者が躓くのが、2つ目の「市場の新規性」です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
2. 要件①【製品等の新規性】:「作ったことがない」だけでは不十分
最初の要件は、「事業により製造等する製品等が、事業を行う中小企業等にとって、新規性を有するものであること」です。 「過去に作ったことがないものを作るならOK」と思われがちですが、指針には細かいNG規定が設けられています。
① 過去の製品の「再製造」はNG
過去に一度でも製造・販売していた実績がある製品を、再び製造する場合は「新規性なし」とみなされます。 例えば、5年前に撤退した事業を復活させるようなケースは対象外です。
② 単なる「増産」や「置き換え」もNG
既存製品の製造量を増やすための設備投資(増産)は認められません。 また、既存製品の製造方法を変更するだけのもの(例:手作業を機械に置き換えるだけ)や、既存製品と性能に有意な差がないものも、新規性要件を満たしません。
③ すでに「販売開始」しているものもNG
非常に重要な点ですが、公募開始日時点で、すでに販売や宣伝を行っている事業は「新規性なし」とみなされます。 「もうテスト販売して好評だから、本格化するために補助金を使いたい」。これは通りません。あくまで「これから始める事業」であることが求められます。ただし、市場調査や構想段階の相談などは行っていても問題ありません。
3. 要件②【市場の新規性】:最大の壁「カニバリゼーション」の禁止
ここが最も難易度が高く、多くの申請者が頭を悩ませるポイントです。 要件の定義は、「事業により製造等する製品等の属する市場が、事業を行う中小企業等にとって、新たな市場であること」です。
これは具体的にどういうことでしょうか? 端的に言えば、「既存事業のお客さんを取り合う(カニバリゼーションを起こす)事業はダメ」ということです。
NG例①:既存製品の「代替」になってしまう場合
指針では、「既存の製品等の需要が、新製品等の需要で代替される場合」は対象外と明記されています。
- 例:アイスクリーム屋が「かき氷」を始めるケース 既存のアイスクリームの顧客が、「今日は暑いからかき氷にしよう」と流れるだけの場合、顧客層は変わりません。これは単なるメニュー追加であり、新市場進出とは認められません。
NG例②:単に「場所」を変えるだけの場合
「既存の製品等が対象であって、単に商圏が異なるものである場合」も対象外です。
- 例:A駅前のアイスクリーム屋が、B駅前に支店を出すケース 売るものが同じで、ターゲット層の属性も変わらないのであれば、それは単なる店舗展開(商圏の変更)であり、新市場への進出ではありません。
クリアするための考え方
この要件を満たすためには、「既存事業とは異なるニーズ・属性を持つ顧客層」をターゲットに設定する必要があります。
- OK例:自動車部品メーカーが「医療機器部品」を作る 既存事業の顧客は「自動車業界」ですが、新規事業の顧客は「医療機器業界」です。顧客層が明確に異なり、売上の食い合いも起きないため、要件を満たします。
- OK例:建設業者が「オーダーメイド家具」を作る 既存事業の顧客は「家を建てたい人(施主)」ですが、新規事業の顧客は「家具を買いたい人」です。ターゲットが異なるため認められます。
申請書では、「誰に売るのか(既存顧客との違い)」を明確に言語化し、カニバリゼーションが起きないことを論理的に説明しなければなりません。
4. 要件③【新事業売上高要件】:副業レベルでは採択されない
3つ目の要件は、事業規模に関するものです。 事業計画期間終了年度(3〜5年後)において、新事業の売上高が「総売上高の10%以上(または付加価値額の15%以上)」となる計画でなければなりません。
これは、「片手間の副業」や「お小遣い稼ぎ」レベルの事業では認めないという国からのメッセージです。 既存事業と並ぶ、あるいはそれに次ぐ「第2の柱」に育てる覚悟と、それを裏付ける数値計画が必要です。
5. 審査の合否を分ける「新市場性」と「高付加価値性」
上記の3要件は、あくまで「申請するための最低条件(足切りライン)」です。採択されるためには、さらに審査項目で高い評価を得る必要があります。 本補助金では、以下のどちらかの観点で事業の優位性をアピールすることが求められます。
A. 新市場性(ブルーオーシャンか?)
その製品・サービスのジャンルが、社会的にまだ一般的でなく、普及・認知度が低いものであるか。 競合が少なく、これから伸びる未開拓の市場に挑戦する場合に選択します。
B. 高付加価値性(圧倒的な差別化か?)
すでに一般的なジャンルであっても、他社製品と比較して「高水準の高付加価値化・高価格化」を図るものであるか。 「どこにでもある製品」ではなく、独自の技術やサービスで高い単価を実現できる場合に選択します。
6. まとめ:要件判定はプロでも迷う難所
新事業進出補助金は、非常に魅力的な制度ですが、「要件の解釈」が非常にシビアです。 特に「市場の新規性」の判断は、ご自身の事業内容を深く分析し、公募要領の定義に当てはめて論理構成を作り込む必要があります。
「自分の考えている事業は、要件を満たすのだろうか?」 「カニバリゼーションにならない説明はどう書けばいいのか?」
そのようなお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひ一度、おくだいら行政書士事務所にご相談ください。 当事務所は、府中市、立川市、八王子市エリアを中心に、補助金申請の要件診断から事業計画書の作成までを一貫してサポートしております。
要件を満たさないまま申請し、不採択となるリスクを避けるために。 まずは専門家の視点で、御社の「新事業」を診断させてください。